なぜしかるのか(期待と連鎖)
親自身の持つ期待があるから,しかる(おこる)気持ちになる.その期待は,自分の親から引き継ぎ,子どもへと連鎖していく. 何をしかっているのか(伝えているのか)自覚しているか
期待しすぎると束縛になる. 親は,子どもに成長して欲しいと願う反面「素直でいい子でいてほしい」と願う気持ちもある.この「いい子でいてほしい」願いの最たるものは「赤ちゃんのままでいて欲しい」と親は願っていてしまう.「子どもを守りたい」「子どもが好きである」のような親の期待は強すぎると過度の束縛になってしまう.たとえば,箸の上げ下ろしまで細かいことまで注文をつけ,のびのびとさせられない.異様なまでにベタベタしてしまう子離れができない状態もある.家族や社会においてある程度の束縛はあるが,程度が強すぎると副作用がでてくる.
意識しにくい親自身の期待に応じた反応を返している. 子どもと触れ合う中で,親自身が何を期待しているのかがわからないことが多い.多くの場合,親自身がそれに気がつくと鳥肌が立つように驚くし,場合によっては怒り出す人さえいる.たとえば,東京の満員電車の中で,静かにしていれば褒めるし,うるさくしていればしかるのは,静かにし,他人に迷惑をかけないように期待していることになる.そのような親自身の行動があった場合,なぜそのように考えているのかを掘り下げてもわからないことが多い.そして,その期待は絶対的なものではなく,親自身が育ってきた文化や状況に応じた期待をしていることに気づくと楽になる.人は,その期待に応じた反応を返している.
期待が自覚しにくいので無理難題を押し付けてしまいがちだ. 良い学校や会社に入ってほしい,子どもには幸せになってほしい,いい子になって欲しい,逆に何も期待したくないという,いろいろな期待がある.その期待は親自身では自覚しにくいため,無理難題を押し付けてしまう傾向がある.
親自身の反応に着目する必要がある. 自分自身のしかろう・怒ろうと思うことの背景には,どのような期待があるのか,それは子どもにあっているのかに気づかなければならない.どのような期待なのか,それは子どもにあっているのかをよく吟味する必要がある.
自分が子どもだった頃を思い出そう(世代を超えた連鎖) 自分が子どもだった時を思い返してみよう.いやだったことはなんだろうか.意味のないことはなんだろうか.親自身が子どもの時にされてきたことを,子どもに期待してしまうことが多い.この期待が望まれない時は,子どもに連鎖させないようにしよう.
この連鎖は,無意識で自分自身に染み付いているため,なかなか切り離せない.十年以上かかっても治りにくいため,あきらめず時間をかけてじっくりと取り組んでいこう.
大人であれ,子どもであれ,人は周りの期待に答えようとする(=影響を受ける)ため,大人扱いすると大人として振る舞う.子供扱いすると子どもとして振る舞う.
しかり方のポイント
効果的にしかるため,しかり方のポイントをまとめた.
- 親(両親,祖父母,先生など指導する関係者を含む)で協力し役割分担しているか
- 子どもは,あらかじめ わかっているか(事前告知制による予測可能性の向上)
- わかりやすく具体的な内容と物語を伝えているか(説明責任)
- 子どもには,できない理由がある(実行できない要因はなにか)
- 成果がでるまで耐えることもある
- 子育ては本気で
親(両親,祖父母,先生など指導する関係者を含む)で協力し役割分担する
子どもと接しているのは私だけで いっぱいいっぱいだ
さまざまな家族の構成や関係があるため一概には言えないとはいえ,関係する大人で子どもとの関係について話し合い役割分担すると楽になる.
- たとえば,両親が一緒にいる時は,両方で同じ口調でしからないように取り決めている.父親が激しい口調でしかった場合は,母親が優しく受け止める,のような取り決めをしている.たとえば,父親が激しい口調でしかったが,違和感を感じた母親から「なぜしかったのか」指摘してと相互理解をしよう.もし納得できるなようであれば,噛み砕いて母親が説明するし,しかったことがよくなかった時は父親が謝る.
- たとえば,母親は,いじめられないよう細かく子どもに指摘していた時に,それを聞いていた父親がその内容に矛盾があり子どもが困っていることを指摘した.その結果,子どもはすっきりとし母親が細かく指摘することは少なくなった.
- 祖父母と同居している時は,祖父母との孫との関係性を見て,祖父母に指摘しつつも,その行動を想定した行動するなどコントロールしきれない中で最善を尽くそう.
このように親が協力し役割分担することで一貫性とバランスが取れた状態を目指している.
あらかじめ伝えておく(事前告知制による予測可能性の向上)
気が付いた時に しかると,のびのびとあそべない
突然,子どもが怒られると,びっくりしてしまうし,親の顔色をうかがう能力が長けてしまう.顔色を伺うことは大切な能力であるが,あまり徹底すると,のびのびと遊べなくなってしまう.
それゆえ,あらかじめ注意事項を伝えておく. それだけ気をつけていれば,親の目を気にせず のびのびと遊べるし,危険なことを避けられるので親も安心していられる.事前に告知することは,カンファレンスや研修の時,講師は,あらかじめ会場についての注意事項とスケジュールを伝えることに似ている.
たとえば,初めての公園や遊び場についた時は,このような指摘事項を伝える:
- 安全と健康に関する注意事項:「公園の外にある道路は車が多いから,公園の外に出る時は教えてほしい」
- スケジュール/集合時間:「寒くなる16時ごろになったら帰ろう.ここに集まってね.」
- そのほか気になったこと:「あそこの木は面白そうだね〜」
- 質問事項:「質問,何かある?気になることがあったら,その時でいいから教えてね」
この場合,道路に飛び出したなどの場合はしかることになるし,16時を過ぎて遊びたい時は親に交渉する.
もし指摘事項をあらかじめ伝えていなければ,親が「(指摘がモレていたことを)ごめんなさい」と謝る. これは,ダブルバインド1のような矛盾したコミュニケーションを構造的に排除する効果もある.このようにあらかじめ伝えておくことによって.子どもは親の行動が予測可能になってくる.
わかりやすく具体的な内容と物語を伝えよう(説明責任)
何度でもしかる必要があるのは,子どもは理解していない
親からの指摘が「きちんとしなさい」「ちゃんとしなさい」「もっと頑張れ」のような内容では,子どもはわからない.何が「きちんと」「ちゃんと」なのかを噛み砕いて話そう.たとえば,朝,学校に行く前に「ちゃんと用意しなさい」ではなく「歯磨きをして,ハンカチとティッシュを持つ.(冬は)上着を着る」のように噛み砕くとよい.宿題やお稽古事があるときはタスクリストを用意しておく2.
習慣づけする前には,子どもと共有できる物語があると面白くなる.ちょっと前だと「夜,寝ないとお化けがきて,足裏をペロペロ舐めるから背を伸びなくなるよ(子どもは,成長を阻止する要因のことを教えた)」や「バイキンマンは,手洗い うがいが嫌いだ,バイキンマンをやっつけよう」などのように,楽しみながら伝えよう.
もし交通ルールのように複数の指摘事項があるときは,交通教室(小学校でやってくれる)を参考にするなどの方法が取れる.
子どもにって怒られることは影響が大きいため,親自身は子どもが納得し理解するまで説明する責任がある. 暗黙的な価値観でしかることが多く,子どもに説明することは困難なことが多い.子どもに説明できるよう少しずつトレーニングしていく必要がある3.しかっている内容が妥当であるのか,子どもと合意できることが望ましい.
できない理由を探ろう
何度しかっても,そのことをやってくれない
できない子ども: 家族で一緒に外出するとき,用意や準備をするように指摘されても,ギリギリまで手をつけない子どもがいた.ギリギリになっても準備をせずに何度も指摘されている.繰り返し言われるので「やれやれ」という諦めたような表情をして準備していた.簡単なことを何度も言われてもできなかった.
できない理由がある: よくよく観察して見ると,行動が効率的で早めに準備できている.とても準備が早いため,ずーっと玄関で待ってしまうことがわかった.つまり,待っているのは子どもで,親の準備が遅かったのだ.
このように子どしかには,指摘された内容を実行したくない理由があるのだ.その理由を取り除かないで,いくら厳しくして繰り返ししかっても全く意味がない.むしろ子どもの不信感を育ててしまう.
なぜしかられたことをしないのか,一緒に理由を考えてみよう. 人生経験の豊富な親が,何が悪いのかが理解しても実行できない理由を子どもと一緒に考えてみる.その環境を観察し気持ちを理解してみることは,きっかけになるだろう
押し忍ぶ時期もある
何十年もかけて会得する稽古ごとや修行のように,言葉で説明できないこともある. 会得した時に,その感覚や状態には言葉が付いているものの,会得しない状態では理解ができないからである.
成果が出るまで時間がかかるものだ. たとえば,算数や英語,習字などの勉強や,空手や能楽など使う技術はなんども繰り返して身につける必要がある.体が覚え無意識にできるようになるまで一定期間の時間が必要なものもある.
押忍の精神も必要である. その場合,自我を捨て我慢をする場面があることも理解してもらう(うちでは「ここは,押忍だよ」のように話している).
ただし,根性論や精神論になってしまう効率的ではない状況もありえる.あくまで信頼された経験のある人であるか,安全や健康などが担保されることなど,十分に見極めることを忘れてはならない.
しかる(怒る)時は本気で怒る
中途半端ではなく,本気で怒ろう. むろん安全にね.
次の記事は おわりに - 子どものしかりかた (7/7) だよ.
記事一覧
- はじめに - 子どものしかりかた (1/7)
- 子育てとしかることと怒ること(定義) - 子どものしかりかた (2/7)
- 子どもは しかって強く育てるのか,ほめて伸ばすのか,子育ての心がけ(欺瞞と正直) - 子どものしかりかた (3/7)
- どのぐらいしかるのか(頻度と度合い) - 子どものしかりかた (4/7)
- 子どもが自分で行動するために判断基準を作ろう - 子どものしかりかた (5/7)
- なぜしかるのか,どのようにしかるのか - 子どものしかりかた (6/7)
- おわりに - 子どものしかりかた (7/7)
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ダブルバインドは,チームの育て方(6):ダブルバインドとの戦い - ari’s world を参照してほしい.↩
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プロジェクト手法を参考にしたタスク管理は,とてもよく動いているため,いつか記事に書く.↩
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子どもに説明する能力を向上させることは,いつか書きたい.場合によって,こちらも興味があれば,ワークショップや研修の実施も検討したい.↩