ゲームと学びと子どもたち(1):ゲームを体験する
普段ゲームする経験がほぼない筆者がゲームをやってみた。なぜゲームをやってみたのか、その経験からなにがわかったのか、どうすればよいのか、現時点でわかったことを紹介したい。
本記事は、4回+αの予定である。
- ゲームの体験:ゲームを体験し、よかったことと気になること(本記事)
- ゲームをすること:ゲームに熱中し冷めるポイントとその過程
- ゲームからの学び:マーケティング、執着と物語
- ゲームと学びと子どもたち:ゲームとうまく付き合うパターン
はじめに(問題意識)
ゲームにハマっている子どもが多い。近所の公園で集まって、ゲームしている子どもたちを見たことは衝撃だった。子どもたちは、ボールや鬼ごっこなどではなく、公園で静かに黙ってゲームしているのだった。電車でもスマフォを使ってゲームをしている人が多い。
ゲームは、何がこんなに面白いのだろう、何でみんなやるのだろうか。その影響はなんだろう。私自身、ゲームをしたことがあるが、ハマったことをすでに忘れてしまっている。子どものころ、隣人からゲーム機をもらったものの、最初のゲームで虚しさを感じ、やめてしまった。その後、テトリスやカードゲームを時間のスキマにやってはいるものの、ゲームに熱中することはあまりなかった。
子どもたちがゲームにハマり、それについて考察するためには、自分が経験することが一番だ。真性ではないため、究めるまでハマることは困難ではあるが、自分なりに経験することはできる。
ゲームをやってみた(イングレス)
SNSを通じて面白いと聞いていたイングレス(Ingress)を友人の勧めもあり試すことにした。その友人は私を招待し、丁寧に説明してくれた。
その後、イングレスには、年齢制限があることを知り、子どもはイングレスをプレーすることができない。しかし、子どもがイングレスができない前提を置きながらも、ゲームをする経験の共通性はあるだろう。
イングレスは、"スマートフォン向けの拡張現実技術を利用したオンラインゲーム・位置情報ゲーム ^ingress_wikipedia"である。参加者が申請し、承認された文化遺産や公共機関などのポイントがGoole Maps上に表示される。その2つのチームに分かれ、そのポイントで囲った面積の大きさ(正確には人口の多さ)を争うゲームである。そのため、実際の場所に行って、その地点を奪い合ったり、補強助け合ったり、さまざまなことを行う。
友人の招待で、ゲームがインストールされ、やり方を聞いたものの、あんまり面白くない。単純にその場所に行って補給することを淡々とこなしていくだけである。その友人にも「つまらないから辞めるね」と話して、ゲームを起動することはなかった。
数ヶ月はたっただろうか。たまたまゲーム画面を開いてみた。面白くなったのは、味方のポイント間を結んだときだ。かっこいい音と共に、自分の場所からすーっと線が伸びる。その線で三角形を囲い陣地を獲得できると、真っ黒な地図上に味方の色が広がり気持ちよかった。
イングレスは、敵味方の行動がログとしてわかるようになっている。だれだれが、どの場所を攻撃した、またリンクを張り自陣を広げた、などのような行動がわかるようになっている。街中でゲームしていることがわかると、声をかけられることがよくある。味方チームと何度か声をかけられ、情報交換や部品交換なども行われる。敵チームのプレイヤーに声をかけられ、最初は攻撃的な態度であったのだが、あまりに素人だと思ったのか丁寧にゲームの仕方を教えてもらった。
そのうちに自分の陣地を広げるために、地図を見ながら作戦を立て、実行する。たとえば、弱い陣地の取り方がありそうであれば、その弱点に着目し、改善するプランを作ってみるなど創造性を発揮して、ワクワクしながらゲームをしていた。他にも、レベルを上げるため、ポイントやメダルをどのように取得するのか考え、他のメンバーが動きやすいように手配するのも想像力を発揮できて面白い。
この記事は、イングレスのレベル8を取得した時に書き始め、その後もレベルがあがった。レベル8は、空手で初段の黒帯、スキー(SAJ)で一級のような、本当のゲームが始まるスタート地点と言われている。まだまだこれからではあるが、ひとまず現時点の気づきを記録している。
よかったこと
イングレスを起動すると見慣れた土地が色づいてみえ、わくわくする。イングレスのキャッチコピーであるThe world around you is not what it seems.(あなたの周りの世界は、見たままのものとは限らないのとおりである。
イングレスは、いろいろな場所にある文化やものに気づくことができる。地元でも気がつかず知らない公園や神社仏閣を知ることができた。子どもと公園めぐりをして楽しんだり、地元の神社仏閣をめぐって歴史を感じることができたのものゲームをしていたからだ。新しいレイヤーを通じて世界を見える気がしました。そして、自分の歩いている土地に興味が湧き、少しだけ好きになることがあった。
地図上のポイントを歩き回るので、多少的にも健康になったようだ。基本的に、その登録されている場所に足を運ぶ必要があり、ゲームをしながら数時間歩くこともある。敵の攻撃を受け、自陣を壊される前に走って移動することもあった。その結果、体を動かすことが少ない時に比べて、体重が減り、太る前のズボンを履くことができた。少し日焼けし、少し健康的になった。
イングレスは仲間ができる。一定レベルに上がることによって、攻撃力や防護力などが強化されるため、レベルアップに専念する人が多い。紹介してくれた友人がレベルアップに付き合ってくれた。さらに、その友人の勧めもあり、自分チームの地元チャットルームに参加することになった。そのゲームの特性により、ご近所さんが増えたようなものである。食材が余ったと聞けばもらいに行き、あまった食材をもらったり、ゲーム上の部品が余れば不足している人にあげに行く。困ったという地域があれば、何気なくテコ入れをするのように力を合わせる。歩いていると友達と出くわして、いろいろ話す楽しみもできた。
実際の場所に足を運ぶ必要があるため観光や商業施設の宣伝になる。神奈川県横須賀市は、イングレスのユーザー向けに無人島のフェリーを半額キャンペーンを実施した^sarushima。地元にあるクレープのお店は、いつも安定した高いレベルを維持していることもあり名前が知られ、定期的にクレープを食べた報告がなされている。
よかったことのかわりに
ゲームは時間を消費する。歩いて15分程度の距離を抜けるのに一時間ぐらい経過していることはザラである。ちょっとのつもりでも長い時間が経過している。イングレスの時間をあらかじめ見積もっておいて、その中で楽しむようにする。しかしながら、よくあるようにその見積もりはよく超過するし、そもそも予定した時間を過ぎていることすら忘れてしまう。他の人でも、たまたま休みなのかほぼ終日ゲームをしているようなでもあり、時間をかけている。
ゲームは手間がかかり、気が取られる。何かほかのことをしていても、自分の地元など気に入った地点が攻撃されると通知が来る。そのため、他のことに集中しにくくなり、自分の地点に強化するなどに取り掛かってしまう。一度、ゲームを起動すると、ほかの地点を補給なども気にあり手を入れたくなる。さらに歩きながらスマフォを触るようになる。家族と一緒にいても、地点が近づくとゲームを立ち上げ、攻撃や強化を行う。都心は地点が多いため、スマフォをしまうことがなく継続的に操作することになる。そうなると、歩きながら常時スマフォを立ち上げ、ゲームし続けるようになってしまう。
家庭の危機や衝突を引き起こす。子どもを自転車に乗せながら、もしくは一緒に歩きながらイングレスをすると子どもが待つことになる。当たり前のことであるが、子供は待つのはシンドイので苦情が頻発する。敵の急襲を受けて家を飛び出すと家族からは不審がられる。家族との衝突や調整は、仲間うちではよく話題になる。夫婦や親子でイングレスをやっているケースも、この調整の一環となっている。
FacebookやTwitterなどをはじめとする他のSNSやメールを見る機会が激減した。もともと関心が薄いためか、SNSへの敷居が高くなり「よいしょ」という感じで、アプリケーションを起動する。ゲームに集中していると仕事や恋愛、友人などへのほかの関心が相対的に減ってしまう。これは全体の関心が一定で、あることに関心をもつと相対的に他のことの関心が減ってしまう(「関心一定の法則」と名付けている)。
イングレスは攻撃や構築、補強などのログがすべて公開されているため、実生活のリスクが発生する。そのログを見ると、いつ誰がどの場所にいるのかわかってしまう。敵陣営のある人は、攻撃通知を受けるとすぐに自転車で駆けつけて復旧させてしまう。私自身にも何度か声をかけて「お前は嫌いだ」「ふざけんじゃねーよ」などと攻撃的なセリフを吐き続ける。嫌いだ、と伝えるためにわざわざ丁寧なやつ(迷惑なやつ)である。他のメンバーも被害にあっているらしい。ごくごく一部とはいえ、恫喝(どうかつ)やつけまわしなどの事件も起きているようだ。
神社仏閣や閑静な住宅地などにできた場所が登録され、イングレスのために人が訪れることで、近隣の人が迷惑に感じる事例も聞く。公共の場所しか登録できないが、深夜も含めて多くの来訪者に地元の人が驚いて反応してしまう。イングレスで遊ぶ人が増えたため、このようなローカルな社会的な問題も発生している。
まとめ
ゲームを楽しむことは、それなりの時間を消費し、リスクもある。それらのマイナス要因をコントロールする技術や習慣が大切なことがわかった。
よかったこと
- イングレスを起動することによって見慣れた土地が色づいてみえる。
- 場所にあるに気づき、文化を知り、その土地が好きになる。
- ゲームを動機として、たくさん歩くことで健康になる。
- 出会うことで仲間や友達ができる。
- 観光や商業施設の宣伝になる。
気になること
- 熱中するようにできているため、時間を浪費しがちである。
- 手間暇がかかり、ほかへの関心が減ってしまう。
- 家庭内の問題や衝突が発生する場合もある。
- 敵陣営の人から付きまとわれるなど、実生活のリスクが発生する場合もある。
- 多人数で閑静な場所に訪問することになり、社会的な問題が発生することもある。
謝辞
- イングレスを教えてくれた友人に感謝する。
- 敵チームでありながら、攻撃的な声掛けながら、いろいろ教えてくれた方に感謝する。実質的なキッカケになった。
- 地元のコミュニティのみなさま、声をかけてくれた方々、ゲームを通じて助け合ってくれている皆さまに感謝する。とても刺激的な時間を過ごしてます。
- 何よりも あたたかく見守ってくれた家族に感謝する。