先日、地元のコーチング講座に参加してみた。二人がペアになって、個人的なことについて話したことを聞いていただいて、聞いた人が聞いたことをそのまま話した人に伝えてもらうワークをした。その結果、自分の伝えたことが欠落し、伝わっていないことが多くあることを実感し、少なからずショックを受けた。話すことと聞くことを意識しても、記憶や伝達の過程で、伝えたことが欠落しているコミュニケーション・ギャップが発生していることがわかった。普段の何気ない会話もスゴいギャップが発生しているということだ。コミュニケーションは本当に難しいことを改めて実感した。
そのために、わかりやすく伝える(書く、発言する)ための論理とコツを整理していたところ、そのうちのひとつであるパタンを使ったコミュニケーションについての説明が膨らんでしまった。パタンとは、建築家アレグザンダーが提唱し、その後ITの世界でも独自の進化を遂げてきた、物事のとらえ方だ。この記事では、わかりやすくつたえるコツについては割愛し、内容をパタンに絞った。
日常やビジネスにおけるコミュニケーションで、パタンをどのように応用すればいいのか、簡単に紹介したい。
パタンの形
たとえば、これからも健康でいるために1(身体編)を整理すると、このようになる。
- 運動をしていないとき、
- 健康が心身ともに調子悪いから、
- 汗をかかない スポーツもある
- 適当に体を動かして汗をかく
- その結果、心身ともに調子が良くなる。
- タイトル:適当に体を動かして汗をかく
記事を書いているときに参考にしていたパタン形式を使って、一般的な形にすると、このような要素が入っている。
- こんなときに (When, Where):コンテキスト(文脈)
- 問題領域
- こんな問題(目的、関心)があるから (Why):問題・課題
- こんな制約があって:フォース
- 解決領域
- こうする(How)。:解決策
- こうなる・こうなりたい、発生する課題もある:結果
- 名前
このような構造を頭に入れておくと、コミュニケーションがすっきり整理しやすくなる。
伝えるときもパタンを応用
伝えたいことを頭の中で整理するときにパタンを応用できる。
日常生活で使う:
- 会社近くでランチを食べに行くときに
- いつもお店が混雑するから
- おいしい店は特に混雑するし、
- 早めにランチにいきませんか?
- 次の日から「早めランチどお?」
整理する順番は必ずしも番号通りではなくてよいので、早めにランチ行きたいな(解決策)から考えても、ランチに行く時間だな(文脈)から考えてもよい。状況、問題、解決策のどこから入っても良いが、一番、気づきやすい、わかりやすいところに着目するのがオススメだ。
ビジネスにおける企画書の骨格として使う:
- 小学生の子どもがいて
- すくすくと学んでほしいから
- 小学校や学童クラブは、比較的早めに終わり、
- お稽古は、課目に特化しているし、
- 残業で仕事が遅くなるから
- 「子学びスペース (Co-manabi space、コワーキングスペースのもじり)をやろう。
- シェアハウスではなく、シェア勉強部屋を実現する。
- その結果、親御さんも家族も安心する。
なんて使える。これをひな形に、どんどん検証しながら修正し、必要に応じて膨らませいけばいいのだ。
報告書のひな形としても使う: 意図や背景、関心を書くような書式を採用しているところもあると思うが、
- お客さんが◯◯ウェブシステムを導入した。
- お客さんは◯◯ウェブシステムを使わず、電話で処理することが多い。
- 訪問して利用状況を確認した。
- その結果、端末自体が使われていないことが判明した。スマートフォンで◯◯システムを使えることを教えた。
みたいに、整理できる。うまく行った工夫があれば、名前を付けてパタン形式で保存しておくと、後で再利用がしやすい。
ソフトウェアのソースコードにコメントを付けるときも、決められたフォーマット以外に理由や背景がわかりやすいので、パタンを意識して記入するとわかりやすい。
ただし、必ずしも番号通りではなく会話のときは順番を逆にすることも多い。結論から先に話して、なぜなら、どんなときに、と伝えることもある。これは、何を言いたいのかを先に理解することができるからだが、聞く人のスタイルに合った順番や内容を選ぼう。
聞くときもパタンを応用
- 相手がどんな関心や目的を持っていて
- 行動や発言があるのか。
を理解しながら整理すると、わかりやすい。関心や目的、またその背後にあるパラダイムや文化によって、その発言や行動が異なってくる。
たとえば、SNSで友人が紹介していたある議論では、セキュリティ防御ソフトとOSアップデートはなくてもパソコンが使える状況はあるという発言に対して、ウイルスやインターネットからの攻撃はどのように防ぐのかなどと対立する意見が多くあった。しかし、そのセキュリティ防御ソフトなどが不要とする発言は、ネットワークも完全に分離され、建物や部屋など物理的なアクセスもコントロールされているという前提の上で話している。もし自分がインターネットにつないで使っているパソコンを前提とすると、違和感のある主張に思えてしまうのだ。つまり、前提によって妥当性が違うのだ。
たとえば、第三者に「(ノートの)字が汚い」と言われると、あまりうれしくないだろう。読めればいいんだから、気にしないんだと。しかし、第三者が、ひらがなを練習している小学生であれば、きちんと字を書くことに多くの関心を払っているため、どのような字を書いているかが気になっているのだ。おそらく、きれいな字を書くことを学んでほしかったなら、きれいな字で書くとよいだろう。つまり、関心によって発言や行動が影響される。
ただし、この行動の背後にある問題や関心を明確にするのは難しい。「質問すれば良い」というのは正しいのだけれど、質問に対して的確に答えられる人はマレだ。また「楽しいなぁ」「幸せだな」とか感じていることに対して、「なんで」とか聞かれても困ってしまう。そんなときは、状況や目で見たものを聞くようにしている。
このように、完全に理解することはできない以上、何らかの行動には、何らかの関心や背景を確認するようにする。
議論もパタンを応用
日々の生活でもコンフリクト(対立)に直面することがよくある。会議では平行線な議論が無益に続くこともあって、うんざりする。自分の中でも様々な葛藤の中で選択している。
そんなとき、自分の行動と関心、相手の行動と関心が明らかにし、その共通した関心や課題を探してみよう。もしその共通した関心があれば、それをベースに、それぞれの考え方を理解することができる。そして、共通した関心と、それぞれの関心の関係性を検討する。
ちょっとわかりづらい…ね。例を挙げると:
近所に野良猫がいて、えさをあげてかわいがっている人と、糞尿で困っている人が対立している場合、家猫として買うか、保健所に連絡して処分してもらうか、それとも我慢しているかの選択肢があるだろう。そこで、パタンを参考にすると、このように整理できる。
- 野良猫がいる。
- 猫の糞尿等のにおいに悩まされることなく癒されたい。
- 野良猫はかわいいが、糞尿のにおいで困っている。
- 糞尿のにおいで困っていることは理解できるが、命ある猫を処分する何てもってのほかだ。
- えさをあげながら、猫のトレイを用意し、しつけをしよう。
つまり、最初にお互いの関心や興味を洗い出し共通の関心や課題を探っている。そして「猫の糞尿等のにおいに悩まされることなく癒されたい」という共通の関心事に向けての解決策を考えている。
実際に行うときは「自分の要求や意見を、相手の権利を侵害することなく、誠実に、率直に、対等に表現すること^1」を意味するアサーティブなコミュニケーションなど参考になるだろう。
以前、聞いた話しがある。
電車の中で、お父さんと子どもが乗っていた。電車の中で子どもが騒いでいるが、お父さんは叱らない。 でも、理由を聞いてみると、お母さんが亡くなった葬式の帰りだった、とのことだので、状況を理解した。
これも文脈を理解しスッキリしたコミュニケーションの一例だ。
ただし万能薬ではない
パタンの適用範囲は広い。広いが故に欠点を持っている。
- ここで紹介した方法は、論理的でわかりやすく、スッキリを手助けする一つの方法になりうるが、これだけでは保障することは難しい。保障するためのついての議論は別に紹介したい。
- パタンは器のようなものであるため、具体的なツールや考え方についてを選択する必要がある。例として挙げたアサーティブ以外にも、参考になる考え方や方法がある。様々な考えを取り入れるべし。
- パタンは器のようなものであるため、その中身の質については主体的に関わっている人に影響される(それが、悪いことではないことも多いが)
すべての人が考えていることは偏見が潜んでいる。客観さの度合いはあれど、完全な客観的な事実は認識できない、と考えている(←これも偏見のひとつ)。では、その偏見しか持ち得ないと仮定すると、どのようにコミュニケーションを取ればよいのだろうか。スッキリとコミュニケーションする技術の一つとしてパタンという観点が有用であることを紹介してみた。
パタンとプロジェクトランゲージに関する記事[pattern] - ari’s viewを参考にしている。