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チームの育て方(6):ダブルバインドとの戦い

わかりやすく理解を促すため、具体的な会話を記述した。 もしかしたらプロジェクトや仕事場に類似したケースがあるかもしれないけれど、このシリーズに特定のモデルはいない。


AさんとBさんは、対等な関係性にあるが、Aさんはリーダーになりたいと公言している。 AさんとBさんは、別々のプロジェクトを各々進めているが、Aさんは一緒に仕事がしたい、ということで、どんなプロジェクトにしようか、という話しになった。 そんなときの会話だ:

A「一緒に仕事がしたい。一緒に仕事ができなければ意味がない。」
B「いいよ〜。」
A「何がしたいの?」
B「僕のビジョンは◯◯だから、こんな仕事がしたいんだ…(と詳細を具体的に述べる)」
A「ダメだ、なってない。それは違う!」
B「では、△△は?」
A「興味ない」
しばらく、くりかえし…
B「え…ところでAは何をしたいの」
A「ビジョンを作りたい。まったくビジョンがないからダメだ。だから一緒に仕事はできない!」
B「えっ…」

ふりかえりを経て企画会議になった。

A「抽象的考え方はダメだ。(方法論である)××法とか興味ない。」
B「そうなんだ…(確かに具体的な話しも必要だよな)」
A「で、何がしたいの?」
B 自分の経験したプロジェクトで繰り返し発生したケースで示したあと「これらのケースに共通する根本的な問題を解決したいから、このような戦略をとりたい、こんな効果を期待しているよ。」
A「××で言うとね…」と、その後、専門用語を使いながら指摘を続ける。
B「××の理解が違うんじゃないの?」
A「そんな方法論なんかに興味はない!」
B「では、このケースの問題について、どうすればいいかな」
A 「xxでやるんだ」
B「え?××とか、方法論なんかに興味ないんじゃないの?」
A「実は興味あるよ。」
B「…ごめん、この会議は何だったんだ…すっげー疲れた…」

つまり、Aさんは自分の宣言と言動が不一致なのだ。 抽象度(メタレベル)が違うメッセージにおいて、抽象度が高い会話と、具体的な会話のメッセージが食い違っているから、Bさんは混乱してしまうのだ。 Bさんは、会話が理解ができず、理解のため質問や指摘したところで、Aさんは激しい口調で はぐらかしてしまうため、健全な議論が成り立たない。

それ以外にも、こんな例もある。

A 「報告や相談が足りない!」
B 「◯◯はどうする?(相談)」
A 「自分で考えられないのか!」
B 「えっ…?」
この場合、どうして欲しいのか、質問することが解になるかもしれない:
B「どうして欲しいの?」
A「あなたなら、どうして欲しい?」

のように、要望しておきながら、自分の気持ちを言わない、というのは基本的なパターンで、Bさんは、よくわからない苦しい状態にはまり込みやすい。

メッセージとメタメッセージの矛盾が引き起こす問題

このような状況は、ダブルバインドになっている。定義と内容を見てみよう(Wikipediaより)。

ダブルバインド(Double bind)とは、ある人が、メッセージとメタメッセージが矛盾するコミュニケーション状況におかれること。

つまり、楽しい内容のメッセージを会話で伝えているときに、悲しい表情やトーン等のメッセージを伝えるためのメッセージ(=メタメッセージ)を送ると、受け手は混乱する。 先の例だと、メタメッセージと、矛盾した個別のメッセージをくり返し、受け手は混乱する。 どのように判断していいのか、わからなくなるからだ。 続けていると、自分が自分でなくなるような暗い気持ちになってくる。

理論の内容

  1. 2人以上の人間の間で
  2. 繰り返し経験され
  3. 最初に否定的な命令=メッセージが出され
  4. 次にそれとは矛盾する第二の否定的な命令=メタメッセージが、異なる水準で出される
  5. そして第三の命令はその矛盾する事態から逃げ出してはならないというものであり
  6. ついにこのような矛盾した形世界が成立しているとして全体をみるようになる

という状態をいう。

プレッシャーを与えた上で、メッセージとメタメッセージが異なるダブルバインドをしかけられると、追いつめられたような極めて苦しい心理状況になる。 通常の健康的な思考ができなくなるため、簡単にコントロールされやすい状況に陥ってしまうのだ。

このような症状が現れる。

  • 言葉に表されていない意味にばかり偏執する(妄想型)
  • 言葉の文字通りの意味にしか反応しなくなる(破瓜型)
  • コミュニケーションそのものから逃避する(緊張型)

Bさんは、コミュニケーションをとることを回避するようになったようだ。

自分が持つ盲点や矛盾は自分では気がつかないため、基本的に言動と行動が一致しないことは、仕方ないことと言えよう。 たとえば、目的の大切さを述べながら、目的を大切にできていない、とかもあるだろう。 ただ、立場が異なる場合や、その矛盾点を指摘した瞬間、激しく怒りだすなど健康的ではないことが続くと深刻だ。

ダブルバインド状態に深くおちいると、深い問題を引き起こす可能性が高い。 自分が発したメッセージが、適切なフィードバックが得られないし、自らの行動や思考が停止してしまう傾向にある。

Aさんは、(無意識か意識的かは不明だが、事実として)このような矛盾したメッセージを送り続け、相手をコントロールしやすい状況に持ち込むことができる。 他方、ダブルバインドを仕掛けられた Bさんは、灰色で苦しい日々を送ることになってしまうのだ。 まるで、自分が自分ではないような、とても苦しい気持ちである。

解決にむけて

Aさんにどのような指摘をしても効果がない、もしくは、時間と体力を消費する。 なぜならば、Aさんは「(Bは)なってない」「できないやつだ」などのように、見下した態度で謙虚さを失い、Bさんに対して尊敬せず、信頼していない状態だ。 このような状況に陥ると、BさんのメッセージをAさんは受け取らない。

さらに、この状況下において、Bさんも影響を受け、コミュニケーションが停止し、メッセージを受け取りにくい状態になっている。 お互いの成長が困難になっている。

しかし、このような状況においても、ビジネスの場面において、効果的な結果を出す必要がある。

ダブルバインドの構造を知る

チームで作業しているときに「メッセージとメタメッセージが矛盾するコミュニケーション状況におかれる」ダブルバインドが発生している可能性を知ることは有用だ。 このようなダブルバインド状態では、あたかも自分が自分ではないような喪失感を伴った感覚になり、健全ではなくなる。

ただし、ダブルバインドは成長のキッカケになることさえある。 たとえば、師弟関係のあるときに、その師匠のメッセージは理解できない場合がある。 もしくは、属している文化が違うと、統一的なメッセージであるにも関わらず、それを矛盾なく受け取ることができない。 そのため、ダブルバインド状況であると認識してしまう可能性がある。

ただ、上記の状態も含め、ダブルバインドになれば、健全で対等なコミュニケーションは難しくなりがちだ。 もし可能であれば、チームにおいてダブルバインドについて共通理解を得る機会を設けることもひとつだろう。

矛盾している事項を指摘する

矛盾を感じている事柄について、指摘や質問する。

しかしながら、多くの場合において、隠れたメッセージが「相手をコントロール下に置きたい」であるため、その指摘や質問について真摯に対応され、回答がとられることは少ない。 たとえば、「そんなこともわからないのか」などの見下しから始まり、激怒などの反応を引き出すことさえ多くある。 真摯に応答していれば、相手はダブルバインドから脱して、対等な立場になってしまうからだ。

そのため、指摘が更なる混乱を導くことを理解した上で、体力と時間、優先順位などを考え、矛盾を指摘しつづけることもひとつの手だ。

距離を置いて、健康な状態を維持する

このようなコミュニケーションを続けるためには、体力と時間が必要だ。 場合によっては疲労し健康が損なわれる場合さえある。

自分の健康が保てる範囲を超えていれば、距離を置き、修復を待つことが長期的な視点での効果を得られる選択しうる方法だ。 基本的に、見下し、見下されるような関係性では、議論しても時間の無駄になる。

一方でダブルバインドを仕掛ける方は、自分のコントロール配下に置きたいため、「逃げてはならない」とか「避けられない」などをはじめとする強い束縛を望みがちだ。 距離を置く、という選択をとることが、まずは自分の健康を守ることになる。 時間は限られている。 無駄な時間を過ごすことはない。

自分の感情に素直なままでいる

もしその体力があるのなら、素直な自分の感情に耳を澄ませ、その感情に従うようにする。 批判にさらされながらも素直なままでいるのは体力がいる。 このマイペースで、自分の心のままでいられるのであれば、相手にとっても等しく成長の機会を得られる。

結果

ダブルバインド状態はプライドや個人の思いなどと深くつながりやすいため修復や成長に時間がかかる場合が多い。 健康的な状態を確保した上で、効果的なアウトプットを出すなど、営みを続けていくしかない。 のんびりいこう。

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