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チームの育て方(1) :新しい知識の砂場(サンドボックス)

チームの作り方(1) :新しい知識の砂場(サンドボックス

新しい知識を導入する際の問題点

新しい技術や方法論などの知識を、関わっているプロジェクトや業務に導入することは、様々なメリットがあることが多い。 しかしながら、チームで作業している際、その知識を導入することによって、問題が発生することがある。

  1. そぐわない知識による問題発生

    適用しているプロジェクトの状況とは、特性が合致しない。 たとえば、既存のビジネスを分析するためにふさわしいツールを、企画段階の初期に投入しようとするため、具体的な企画ができない。 状況にそぐわない方法論や技術などの知識を導入しても、問題が解決しないだけでなく、あらたな問題を生み出すことがある。

  2. 導入コストの発生

    新しい技術や方法論の導入には、学習のための時間などの工数を要する。 そのための習得している間は、パフォーマンスが一時的に下がる。

  3. 乏しい経験によるムダの発生

    新しい知識は、そもそも経験が少なく、勘所や回避方法などがない。 そのような知識をプロジェクトに導入しようとしても、プロジェクトそのものが進まなくなり、失敗してしまう。

もしかして:アーリーアダプターとプロジェクト

社会学者エベレット・M・ロジャーズの『イノベーション普及学』で、イノベーションがどのように組織に普及するかを明らかにした。 ロジャーズによると(以下、情報マネジメント用語辞典:アーリーアダプター(あーりーあだぷたー) - ITmedia エンタープライズより)イノベーションの普及は、

  1. 冒険的で、最初にイノベーションを採用するイノベータ(革新的採用者)
  2. 自ら情報を集め、判断を行う。マジョリティから尊敬を受けるアーリー・アダプター(初期採用者)
  3. 比較的身長で、初期最初に相談するなどして追随的な採用活動を行うアーリー・マジョリティ(初期多数採用者)
  4. 疑り深く、世の中の普及状況を見て模倣的に採用するレイト・マジョリティ(後期多数採用者)
  5. 最も保守的・伝統的で、最後に採用するラガード(採用遅滞者)

のように整理されている。

アーリー・アダプターを目指し、マジョリティから尊敬を受けること目的としている人は、その知識が採用されていないプロジェクトと衝突が発生する。 しかしながら、何らかの方法論の導入を目的にすることが、手段の目的化しており、有効な成果を生み出すことが困難になっている。

つまり、現場やプロジェクトを視点では、その方法論や技術などの知識は役に立たず、イノベーションではなく単なるコストやムダになってしまうことがある。

もしかして:自己顕示欲のための知恵

プロジェクトの企画段階において、社会的な関心や問題に話題が移ったとしても、「それは××だ」とか「おれ、知っていた」と自分物語を熱心に話し、会議が横道にそれてしまいがちなメンバーがいる。

「自分のためではなく、チームで…」とお願いしても、否定される。なぜなら、そのメンバーの自己顕示欲が満たせなると考えれば、その人に取ってみれば回避すべきことになるのだろう。

また、メンバーに対する批判や見下しを伴うと、その知識がどれだけ有用であったとしてもチームメンバーのモチベーションが低下し、成果物への関心が薄れてしまいがちだ。

その人の自己顕示欲を満たされないと、その人への対応に追われ、チームの進捗を悪化させることになってしまう。

その結果、新しい技術や方法論などの知恵を導入することが手段の目的化し、プロジェクトが遅延し、場合によっては消滅する。

解決しようとしたけれど

どんなに優れた方法論であったとしても、状況にあっていなければ、役に立たないどころか有害でさえある、ということだ。 新しい方法論や技術の導入には、コストがかかることを認めないと、プロジェクトの遅延や失敗に結びついてしまう。

手段の目的化のため、プロジェクトが進んでいかないため、この問題を回避するためには、いくつかの対策がある。

  • 議論や質問>平行線(お花畑)

    ある技術や方法論などの知識が正しく、正義であると考えていると、あらゆる問題が解決できるように信じてしまう。 たとえ、その知識にどのような効果があるか、なぜ、それを採用しなければならないのか、どれだけの工数が必要になるか質問しても、書籍で紹介されている良いところしか見えていない人を説得するのは難しい。 たとえば、論理的に説明したとしても、その知識を信じている人の自尊心が満たされない、というクレームを付けられるなど健全な議論が成り立たない。

  • タイムボックス>侵略されるタイムボックス

    時間を区切り、その中で議論や作業を進めるタイムボックスという手法がある。 タイムボックスを決めたとしても、次のタイムボックスも、その議論が大切だ、という説得になるため、その手法の大切さを議論する。もしくは、タイムボックスを決めるための議論が終わらず、タイムボックスが成立しなくなってしまう。

このような調査のための工数が無視できなくなり、適切な運用ができず、プロジェクトも頓挫している。 いっこうに問題は改善しない。

解決策(新しい知識の砂場/サンドボックス

それゆえ、プロジェクトは、成果を出すことに集中し続け、新しい知識は、勉強会や実験プロジェクトなど領域を区切り、その中で存分に試そう。

  1. プロジェクトは本試合

    プロジェクトは、アウトプットを出すことに集中する。 アウトプットを出すことを主たる目的とし、その主たる目的をサポートするための知識と位置づける。 何らかのアウトプットを出すことは、それなりに時間や費用がかかるため、アウトプットを出すことを守る。 試合を楽しもう。

  2. サンドボックスの用意

    新しい知識を学習し、導入するときは、時間を作り、プロジェクトのスコープを減らすなどの調整を行った上で、試験的に運用する。 その経験を伴わない知識は、昇華され、信頼に値するものになる。 サンドボックスとは、安心して試すことができる場所や時間のことを示す。 実験し試すためのサンドボックスを作り、存分に遊ぼう。

  3. サンドボックスで試す:建設的な懐疑心

    自分の持っている成功体験や知識について、絶対的に正しいと思うのではなく、常に良い意味での懐疑的な態度を持とう。 もし正しいと信じた時点で、他の適切な情報がシャットアウトされ、成長が疎外されることが多い。 また、自分の知識が絶対的に正しいと考えた時点で、建設的な議論が困難になりがちだ。 サンドボックスで、知識を叩き上げよう。

  4. サンドボックスから本試合へ

    状況を見極めて、プロジェクトや業務に改めて、その知識を導入する。 そのときには、すでに叩き上げられた確固たる知識になっているので、安心して適用できる。 むろん状況に合わなければ、その知識を導入することは見合わせ、虎視眈々とチャンスをうかがおう。

結果

そのプロジェクトが解こうとしている問題に着目し、成果を出すことに集中することによって、副次的に経験を伴った新しい知識を得られるようになった。

一方で、勉強会やプロジェクトなどクローズドなところで、その知識を徹底的に試し、叩き上げることで、より強固な知識に得ることができた。

ただし、その自己顕示欲が強いメンバーにとってみれば、限定されることがおもしろくなく、より不満が大きくなっている。しかしながら、プロジェクトのスループットが上がり、少しながらアウトプットが出せるようになってきた。 アウトプットに応じて、品質も向上するなどのチームとして成長するようになってきた。

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Image: http://en.wikipedia.org/wiki/Sandpit

関連する情報(2014年11月3日追記)

組織はバランスをとる、ということ。

退職のときに元上司が僕に言った慧眼のコメント | 和田一郎も同じ問題のようだ。

記事にあるように、根本的には"軽く見られてしまうと劣等感"が、根本的な問題なのかもしれない。 劣等感を解消するために、相手より高い位置を確保する自己顕示欲が強く働くため、周りの人の足を引っ張ったり、もしくは、自分の信念を押し付けるなどによって、相対的に自分の支配ができるように働きかける。 その結果、チームや組織として、バランスが崩壊することになる。

なにかの本で学んだことや、シンプル過ぎるものにすべて委ねて信念としてしまうと、時として、ただの「頑固」になってしまう。

むろん、シンプルで分かりやすいものは理解しやすく、伝わりやすい。 しかしながら、それを信念としてしまうと、状況が見えず、極めて危険な状況になりやすい。 むろん、その「信念」が有用かもしれないため、サンドボックスを作り、その中で試すことを提案した。

どのように実現しているのか

似たようなブログ記事を、もう少し技術的な観点から書いていました。