ari's world

あるかどうかわからないけど、あるみたい。ありがとう。

見ている夢のお話:コミュニケーション的転回(Communication Turn)β

「夢かもしれない、ひとりかもしれない」が、これから何をしていくのか何をしていきたいのかの夢を文字にしておく。現在、どのような問題があるのだろうか。どの社会であったとしても、必ずや矛盾があり、その矛盾を乗り越えていくとはいえ、切実な問題はなんであろうか。

子どもの頃から、私の問いは「なぜ人は争うのか」であった。それは、戦争であり紛争であり、テレビや新聞で見聞きするニュースであり、友人から家族、日常生活の中にも争いはある。そして、2005年12月18日から、その問いに「生きること」が加わった。生きることに敏感になった。生きるってなんだろう。私のペンネームである「あり(有り)」のように。

まだ「β」をつけたように、答えではないのですが、少しだけ見えている道筋を紹介したい。

 ◇ ◇ ◇

状況

(暗く重たい話が含まれます)

このところ身近に感じる「空気」を紹介したい。自宅は、踏切からそれほど離れていない場所にある。たまに通過する電車から「ファーン」と大きな警笛を鳴らしながら「ききーっ」というブレーキの音が聞こえる。しばらくの静寂の後、駅のアナウンスが聞こえる。しばらく電車は動かない。そう、人身事故だ。

回答する記者団:データ特集:鉄道人身事故マップ(第3版)』によると、その沿線は、踏切が多いためか90件強の事故が登録されている*1し、中央線では116件が登録されている。鉄道人身事故2010年10月まとめによると、関東では36件中自殺者が24名となっている。おそらく3分の2にあたる60名前後が自らの命を絶った、ということなのだろう。自分自身が乗っている電車が「その事態」に遭遇したこともある。あのときの物理的と精神的に感じた においと空気は忘れられない。そして、その家族や知り合い、同僚のことに思いを馳せる。どんな人生を歩んできたのであろうか。

生きているのに、なんということだ。なぜだろうか。

時事ドットコム:【図解・社会】自殺者数の推移によると「97年と比べ、20代を中心とする若い世代の自殺率は高い水準にある。自殺者統計|自殺対策支援センターライフリンクによると、「20代・30代・40代・50代の自殺の第一原因は、「経済・生活問題」」となっている。因果関係は不明だけれど、よく耳にし経験にも近い苦しみを生む状況を見てみたい。

たとえば、『離職率ランキング*2』を見ると、「楽天離職率は半数の5割と言われ」、「ユニクロは3年で5割。5年ではなんと8割超になるそう」とのことだ。あるプロジェクトでは、方法論に基づいた業務を遂行するために、どんなに優秀な人であっても、その方法論に適合しない人は外してしまうとプロジェクトのチーフマネージャから聞いた。プロジェクトの成功という定義に従えば、おそらく現実的な解決策なのだろう。人の回転が早く、適した仕事をできることは双方にとって良い面もあるとも言える。しかし、外された人はどんな人生を歩むのだろうか。

たとえば、経営方針やプロジェクトの推進方法、コンプライアンスなどの様々な理由から非常に強い管理体制を実施しているところも多い。ブラジル会社を経営しているセムラーもその著書で「恐怖と脅しによる管理体制は、奴隷制度と同じである。」と紹介している。そう、見方によっては現代社会でも奴隷制度があるのだ。続けて「それでは生産的にはならない。(略)クレドなどで経営理念を無理矢理、会社から押しつけても、なかなかそれは浸透していかない。」と紹介している*3。私自身も、ある方法論を入れることを目的にしたプロジェクトがなかなか進まず、方法論の導入だけでなく、プロジェクトも失敗しているのを何度も体験している。人は、個性の必要がない単なる歯車として検討し、人の知恵を活かさないのはもったいない。

たとえば、方法論や経営方針ありきの状態が双方にとっても良くない状況を生み出しているようにも感じる時がある。チームで計画作りを毎週させようとしているが、そのチームではコールセンター業務のフロントで顧客からの毎日のリクエストに応じて個人で対応する業務をしていた。そのような状況で、チームで計画作りを毎週したとしても、まったく意味はないし、時間の無駄である感がある。それでも、しつこいぐらいに計画作りをさせることは、あたかも植民地化をしているようにさえ感じる。その仕事場における状況や文脈とそのメリットを見るのではなく、マズローの言葉と伝えられる「ハンマーを持つ人には、すべてが釘に見える (If all you have is a hammer, everything looks like a nail.)」のように方法論や方針の良さのみに着目している。手段が目的化すること多く、そのような信念を生み出してしまう。

問題

自らであるはずの規範を生み出されるシステムや構造がまるで生き物のように動き出す(「疎外」状態を生み出す)。山本七平氏のように(場の)空気も動き出す*4。その壁は強固で、卵を壁にぶつけても、壁はぴくりともしない。

村上春樹エルサレム受賞スピーチ*5』より

私が皆さんにお伝えしたいことは一つだけです。我々は国や人種や宗教を超えて、同じ人間なのだということ、システムという名の硬い壁に立ち向かう壊れやすい卵だということです。見たところ、壁と戦っても勝ち目はありません。壁はあまりに高く、あまりに暗くて−あまりに冷たいのです。少しでも勝機があるとしたら、それは自分と他人の魂が究極的に唯一無二でかけがえのないものであると信じること、そして、魂を一つにしたときに得られる温もりだけです。

考えてみてください。我々のうちにははっきりとした、生きている魂があります。システムは魂を持っていません。システムに我々を搾取させてはいけません。システムに生命を任せてはいけません。システムが我々を作ったのではありません。我々がシステムを作ったのです。

我々が作ったはずのシステムが、我々の壁となっているのだ。

「魂の脱植民地化」

安冨歩氏の魂の脱植民地化について、2013年5月時点での最新刊である『合理的な神秘主義』から引用しよう。

…それぞれの分野が、それぞれに奇妙な盲点を大切にしていることに気がついた。そしてこの盲点が、確実性への信念に起因している、と考えるようになった。
(略)
私たちが「確実性」への余計な希求にとらわれるのは、魂の能力を信じられなくなるからである。私たちが自らの生きる力を信じられなくなるのは、自らの地平で自らの世界を生きることができなくなるからであり、その現象を我々は「魂の植民地化」と呼ぶ。逆に、そこから抜け出して世界を自らの地平で生きるようになることを「魂の脱植民地化」と呼ぶ。

そう、さまざまな苦しみは、植民地化から生まれているのではないか、という主張に共感する。そして、安冨歩氏『ハラスメントは連鎖する』で述べられているように、その状況は連鎖していく。

それゆえ:

まずは現状をしっかりと見つめよう。規範やルール、組織構造をゆるめ、状況を把握しやすくしよう。自分の「正しさ」にとらわれず、学習回路を開き、自らの地平で自らの世界を生きたい。

しかしながら、自らの地平で生きるには「個」である卵は弱すぎる。壁(システム)にぶつける前に壊れてしまう。行動するための勇気を持つのは、大変だ。特に、追いつめられ、口を閉ざした人が、口に出すことすら困難であろう。

ポイントとなる考え方をふたつ紹介したい。

構造構成主義

Wikipedia によると構造構成主義とは

人間科学においてありがちな信念体系どうしの対立(信念対立)を克服し、建設的なコラボレーションを促進するための方法論あるいは思想のことである。

人間というのは、各人、自身が心に持っている理論体系を信奉し、その理論体系に沿ってある手順で生み出された「記述」を(それは本当は、いつのまにか学習・刷り込みされた、恣意的な規則で生まれたものにすぎないのだが)てっきり「絶対の真理」そのものだと思い込んでいるものだから、信念どうしの救いようのない対立というものが生まれている。

このように、異なった信念が対立することによって、救いようのない対立が生まれている状況は、先ほど例としてあげた方法論同士の対立と同じ状況のように感じる。

構造構成主義は、そこで立ち現れる現象をベースに、その構造や理論を組み立てていく。その結果、異なった認識論や信念を持つ人たちの間で、情報のやり取りを可能にする。

ほぼ日刊イトイ新聞 - 西條剛央さんの、すんごいアイディア。 』には、このようにある。

考えればいいポイントはふたつしかない。
それは「状況」と「目的」です。
今はどういう状況で、何を目的にしてるのか。

パタンランゲージ(プロジェクトランゲージ)

日本のみなさんへ建築家アレグザンダーからのメッセージ』のビデオを見てほしい。

アレグザンダーの語る「こころ」や「美しさ」は、まさしく魂の脱植民地化で言われる「魂」に近しいな、と私は感じた。

トム・デマルコ氏が『ピープルウエア 第2版』でしてきしているように、「すべてのパタンの底辺に流れる共通因子は、型通りの没個性方式の否定」である。これは、魂の脱植民地化の竹端寛書『枠組み外しの旅』の帯である「「個性化」によって渦が生まれる。渦が広がり、社会が変わる」と一致する。

過去を紡ぐパタンと未来を紡ぐパタンの二種類がある。過去の解法(成功体験)を他人に伝えるパタンランゲージが一般的である。しかし、もうひとつ現在の状況から解決策を生み出す未来を紡ぐパタンランゲージ、パタンを強めるセンタリングがある。

これからの みんなのことば,みんなのかたち−パターンランゲージからプロジェクトランゲージへ』や他の論文で紹介したように未来を紡ぐパタンランゲージは、現象や事象にある「こころ」や「美しさ」からコトバを探すところから始まる。構造構成主義における構造構成的研究営為モデルは、未来を紡ぐパタンランゲージにおけるコトバとその構造を生み出すところが関連する。そして、紛争解決のツールや制約条件の理論などのツールを用い、どのように折り合いを付けていけばよいのかを探し出し、パタン(の種)を作る。そして、パタンを単語にし、物語を持ったカタチを作る(デザイン)。パタン(=「こころ」や「美しさ」)を価値基準に、実社会を修復していくプロセスである。

最小限のパタンは、状況と問題(目的)、その解決策から構成されている。状況と目的に応じたアクションをどのように取れば良いのかのパタンを作り、物語を書いてから、そのデザインをしていく方法なのである。

なお,パタンについては,広く広まっている知見があるので,注意して使用する.もしくはその名称を使用せず,広くコミュニケーションを用いる方針である.

孔子「仁」や仏教「悟」

安冨歩氏によると「学習回路を開いている状態を「仁」であり、仁たり得る者を「君子」と呼ぶ(『超訳論語』より)」とある。仏教の四諦・八正道も、苦しみを生む原因を観察し、苦を滅する実践である。

ともに学習回路を開いている状態を実現する方法論としてプロジェクトランゲージやセンタリングプロセス、また、その枠組みとして構造構成主義による整理という理解も成り立つのかもしれない。

小さな一歩を踏み出そう。

ひとりひとりに耳を傾け、コミュニケーションを紡ぎたい。六車由実氏『驚きの介護民俗学』の「聞き書き*6を目指したい。

魂の脱植民地化を目的とし、構造構成主義の原則に則り、パタンランゲージという道具を用いて、ひとりひとりのヒーローに触れたい。そう、ヒーローは、テレビや本の中にいるのではない。あなたであり、あなたの周りにいる全員なのだ。そして、ほんの少しだけ世界を治癒する。

そんな小さな小さな一歩を踏み出したい。

 ◇ ◇ ◇

"I have a dream" 私には夢がある。

このように文字にすると、逆に負担になって自らの首を絞め、行動を阻害してしまうことを懸念してしまう。しかし、この夢が現実になるように小さな第一歩として文字にした小さくて弱い卵である。

まずは、実績があるところから、小さく始めたい。長く続けるための工夫も試したい。少しずつ輪が広がる方法も試みたい。そして、もしご一緒していただける方がいらっしゃれば、ぜひお声がけください。

それぞれの考え方や理論の詳細やマッピングをもっと紹介したいが、超駆け足での荒い内容であることをお詫びしたい。

私は、先人たちや友人たち、ご縁のある人たちの影響をたぶんに受けている。心から感謝したい。

*1:調査期間などの情報を把握していない

*2:http://www.離職率.com/ranking.html

*3:ジュンク堂池袋書店で「人生を変えた一冊」コーナーでセムラー氏の書籍を紹介させていただきました。

*4:「空気」は日本特有である、と話す人もいるが、西洋でも計測されている

*5:http://kakiokosi.com/2012/04/村上春樹エルサレム受賞スピーチ/

*6:著者と語る『驚きの介護民俗学』六車由実2012.7.25も参考になる。「傾聴」「共感」「受容」ではないことも共感している。