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銀の弾とアジャイルについてのメモ (Agile is a Silver Bullet)

銀の弾とアジャイルについてのメモ (Agile is a Silver Bullet)
2018年10月9日

要点

  • 1986年にソフトウェアエンジニアリングについて書かれたフレデリック・P・ブルックス氏(以下、Brooks)『人月の神話』「銀の弾はない」はすごい(久しぶりに読み返した)。まじリスペクト。
  • 本質的な困難と、その攻略を通じて、アジャイル開発を理解するとスッキリする(個人的な見解です)。

はじめに

アジャイル開発は、ソフトウェアエンジニアリングにおいて迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う軽量な開発手法群の総称である。

アジャイル開発の「なぜなのか(WHY)」や「どのような問題を解こうとしているのか」を、自分なりに整理したかった。その時、Brooks『人月の神話』を改めて読んで、びっくりした。これは、すごいと。

2018年10月9日に書いたメモがある。まだまだ整理や考える余地はあるけれど、少し読めるようにして、とりあえず公開してみる。

アジャイルは、どんな問題を解いているのか

2001年に「アジャイル」と名付けられたソフトウェア開発手法のアジャイルソフトウェア開発宣言(以下、マニフェスト、もしくはアジャイルマニフェスト)が公開されている。

アジャイルソフトウェア開発宣言

私たちは、ソフトウェア開発の実践 あるいは実践を手助けをする活動を通じて、 よりよい開発方法を見つけだそうとしている。 この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。

プロセスやツールよりも個人と対話を、
包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
契約交渉よりも顧客との協調を、
計画に従うことよりも変化への対応を、

価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを 認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。

マニフェストは、どのような問題を解いているのであろうか。なぜ右側のことがらに価値がおくのだろうか。その結果、導かれるアジャイルマインドセットやプラクティスの解釈や評価基準はなんであろうか。

銀の弾はない

銀の弾はない (No Silver Bullet) は、1986年に Brooksによって発表された、今(2018年)から30年以上も前だ。この論文は、広く知られていて、ソフトウェアエンジニアリングにとって大切な古典である。

狼人間は慣れ親しんでいるものを不意に恐怖に変えてしまうからだ。だから、私たちはこの狼人間を魔法のように鎮めることができる銀の弾を探し求める。

ソフトウェアエンジニアリングにおいても問題を簡単に解決できる方法やツール「銀の弾」が話題になる。しかしながら、そのような解決策は、継続的な効果がなく消えていくことが多い。本質的な問題を理解し、根気強く持続的に取り組むしかない。

困難の種類

ソフトウェアテクノロジーにおける難しさを本質的なもの偶有的なものにわけた。「難しさの本質とはソフトウェアの性質に固有な困難のことであり、偶有的難しさとは、実現するとき派生するが本来備わっているものではない困難のことである。

  • 本質的な困難: ソフトウェアは、組み合わさったコンセプトで構成されている。その同じ概念構造体が多くの異なる表現で表されるという点で抽象的である。それにもかかわらず、非常に正確で十分に詳細なものである。
  • 偶有的な困難: 実現するとき派生する本来備わっているものではない困難

ソフトウェア構築において困難な部分は、概念構造体の仕様作成とデザインおよびテストにあって、表現することやその表現に忠実かをテストすることではないと考えている。 本質的に銀の弾という特効薬がない。

つまり、「ソフトウェアは妄想の産物である(大槻氏)」にあるように、概念構造体とその操作が難しいことが本質的な困難であるといえよう。

本質的な困難における固有の性質

本質的な困難は、このような4つの性質があるとされている。

  • 複雑性: 規模の拡大は、異なる要素の数が増える。たいていの場合、その要素は互いに非線形で影響し合う。全体としての複雑性の増加は線形どころではない。本質的な複雑性と、その複雑性が非線形に増大することに由来。数学や物理学は、複雑な現象を単純化したモデルを構成…この方法でうまくいったのは、モデルで無視された複雑性が現象の本旨的な性質ではなかったからだ。複雑性が本質の場合は、この方法は使えない。
  • 同調性: インターフェースを人間の慣習や社会制度に順応させなければならない
  • 可変性: 純粋な思考の産物であってきわめて融通性に飛んでいる。慣習や媒体といった文化的マトリックスにすっかり はめ込まれている。それらは絶えず変化し続ける。
  • 不可視性: ソフトウェア実体は本質的に空間に埋め込めない。ソフトウェアの構造は、一つではなく複数の一般的な有向グラフで構成され、それらが互いに重なり合っている。

(不可視性についての「複数の一般的な有向グラフで構成され、互いに重なり合っている」だけで、深く味わえる。たとえば、ソフトウェアエンジニアで使われるUMLやモデル、さらには数学の圏論も有向グラフで構成されている。)

なお、同調性は、仕様書や要求への順応ではなく、人間の慣習や社会制度である人間の慣習や社会制度である。この表現は、顧客にとっての価値と解釈することに違和感を感じない。

本質的な困難への攻略

見込みのあるソフトウェア問題の本質を衝く攻略として紹介されているものとして、1. 購入対自主製作、 2. 要件の洗練と迅速プロトタイピング、3. 漸増的開発(ソフトウェアを構築ではなく、育成する)、 4. 偉大なデザイナーが紹介されている。

攻略 困難 攻略の説明
要件の洗練と迅速プロトタイピング もっとも困難な部分は、何を構築するのかを的確に決定すること プロトタイプと製品の開発および仕様作成を反復しながら進めること
漸増的開発(ソフトウェアを構築ではなく、育成する) 私たちの構築する概念構造体が複雑すぎて、前もって的確に指定することができず、複雑すぎて欠陥なしに構築することができない (生き物の複雑さを参照して) そのソフトウェアシステムも漸増的開発によって育成されるべき。複雑な実体を育成できることがわかった

両方ともに、アジャイル開発のコンセプトと本質的に同一であろう。本質的な問題(複雑性、同調性、可変性、不可視性)に対して、局所化と探索によって回避するアプローチ と理解できる。

世界観(マインドセットや文化)の違い

世界観や価値観が異なっていることから、アプローチの違いが生み出される。マインドセットや文化と呼ばれることもある。あくまで私の解釈で哲学や思想を背景にこれらを雑に分類してみる(これらの世界観の比較は、たくさんの引用文献と相当に長いリストになり、かつ、それぞれの丁寧にマッピングする必要がある。しかしながら、ここでは大胆に捨象している)。

世界観 ウォーターフォール アジャイル
科学アプローチ いわゆる古典的科学  いわゆるシステム科学・生物学的アプローチ
全体と部分 全体は部分の集合によって説明可能  全体と部分は異なる性質を持つ
認識 変化しない 変化する
分離・分類可能性 分離可能  分離不可能・分類困難
事実・真理 事実・真理が自分たちの外にある  事実・真理は関係の中での解釈にすぎない
デザイン 機能  意味
コミュニケーション形態 一方向  双方向

今までは、全体を認識できると前提を置いていたため、その全体を分離することによって局所化していたが、全体が説明できないことがわかったため、その主観的な関心に対して、相互にコミュニケーションを行いながら探索する世界観へ移行している。

銀の弾になるためのアジャイル開発

Brooksの『銀の弾はない』『人月の神話』は、1986年に公開されている。本人を含むさまざまな人が、さまざまなタイミングでレビューしている。

「要件の洗練と迅速プロトタイピング」や「漸増的開発」、「偉大なデザイナー」といい、アジャイルと深く関連する攻略だ。2001年にアジャイルマニフェストを作ったメンバー全員は、間違いなく読んでいるはずだ。

Brooks『銀の弾はない』が、アジャイルの源流のひとつか、少なくとも関連している と私は思った(時間と興味があったら後で調べる)。

ウォーターフォール開発とアジャイル開発の主たるアプローチ

このメモでは、システム開発標準のV字型モデルのような、要件定義書や仕様書をあらかじめ完全にモレなく書くことを目指すスタイルをウォーターフォール開発と書いている。ウォーターフォール開発に近いアジャイル開発もあるし、ウォーターフォール開発でもアジャイルのスタイルを取り入れていることも多いため、厳密な分離は難しい。そのため「いわゆる」と雑な分類になっている。

いわゆるウォーターフォール開発とアジャイル開発の主たるアプローチを比べてみよう。

アプローチ 局所化 コミュニケーション
ウォーターフォール 領域の分割+統治 完全な文書
アジャイル 価値の中心+迅速なフィードバックによる探索 双方向のやりとり(主体的・対話的で深い学び)

つまり、アジャイルマニフェストにおいて「変化への対応」は、同調性や可変性への対応への主張ともとらえられる。また、いわゆるウォーターフォール開発でもうまくいくためにやっていることも評価できるだろう。

「なぜなのか」の解釈を加えたアジャイルマニフェスト

本質的な困難を通じて、アジャイルマニフェストに追加してみた。元になっている文章は、イタリック(斜体)で表記している:

ソフトウェアエンジニアリングが持つ本質的な困難を攻略するため、よりよい開発方法を見つけだそうとしている。

  • 不可視性: 重なり合っている複数の一般的な有向グラフで構成された概念構造体は、空間に埋め込めず見ることはできないため、プロセスやツールよりも個人と対話に価値を置く。
  • 同調性: インターフェースを人間の慣習や社会制度との順応(顧客から見た品質)を調べるため、包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアに価値を置く。
  • 複雑性: 本質的に複雑なソフトウェアに対して、相互のコミュニケーションを通じて攻略するため、契約交渉よりも顧客との協調に価値を置く。
  • 可変性: 慣習や媒体といった変化する文化的マトリックスに はめ込められているため、計画に従うことよりも変化への対応に価値を置く。

「なぜなのか」の解釈を加えたアジャイル開発の原則

銀の弾にある本質的な困難からみた『アジャイル宣言の背後にある原則(アジャイルの原則)』は、このように理解できるだろう:

アジャイル宣言の背後にある原則 私たちは以下の原則に従う:

  1. 人間の慣習や社会制度に順応する同調性を向上させるため、顧客満足を最優先し、価値のあるソフトウェアを早く継続的に提供します。
  2. 組み込まれている文化的マトリックスは固定ではない(可変性がある)ため、要求の変更はたとえ開発の後期であっても歓迎します。変化を味方につけることによって、お客様の競争力を引き上げます。
  3. リリースして同調性を確認しつつ可変性を確保するため、動くソフトウェアを、2-3週間から2-3ヶ月というできるだけ短い時間間隔でリリースします。
  4. 組み合わさった概念構造体の不可視性を攻略するため、コミュニケーションを密にします。ビジネス側の人と開発者は、プロジェクトを通して日々一緒に働かなければなりません。
  5. 不可視性を攻略するため 健康的で効果的なコミュニケーションを用いるので、意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成します。環境と支援を与え仕事が無事終わるまで彼らを信頼します。
  6. 組み合わさった概念構造体によって生み出される複雑性を、ノンバーバル(非言語)を含めたコミュニケーションによって攻略するため、情報を伝えるもっとも効率的で効果的な方法はフェイス・トゥ・フェイスで話をすることです。
  7. リリースしたソフトウェアと社会との同調性を計測するため、動くソフトウェアこそが進捗の最も重要な尺度です。
  8. 本質的な困難を回避する特効薬(銀の弾)などなく、反復しながら育成する必要があるため、アジャイル・プロセスは持続可能な開発を促進します。一定のペースを継続的に維持できるようにしなければなりません。
  9. 本質的な困難を攻略するための土台を作り、価値を担保するため、技術的卓越性と優れた設計に対する不断の注意が機敏さを高めます。
  10. 複雑性を攻略するための心がけとして、シンプルさ(ムダなく作れる量を最大限にすること)が本質です。
  11. 組み合わさったコンセプトで構成される概念構造体を重ね合わせ、統合していくプロセスが含まれる(複雑性を用いた同調性の獲得)ため、最良のアーキテクチャ・要求・設計は、自己組織的なチームから生み出されます。
  12. 同調性を生み出す可変性を調整するため、チームがもっと効率を高めることができるかを定期的に振り返り、それに基づいて自分たちのやり方を最適に調整します。

本質的な問題(複雑性、同調性、可変性、不可視性)に対して、局所化と探索によって攻略するアプローチ として、とても良くできている。

本質的な困難の攻略を支援する道具たち

コミュニケーションを支援する環境・技術(例)

双方向のコミュニケーションを実現するために、このようなことが言われている(例)。

  • 心理的安全による支援
  • 主体性の獲得による実現
  • 組織構造による支援(ティール組織やホラクラシー組織)

アジャイル開発のプラクティスが支援する仕組み(例)

アジャイル開発のプラクティスは、本質的な困難をどのように攻略しようとしているのか、の観点を加えると使いどころがより明確になるのではないだろうか。

  • スプリント計画・スプリントレビュー
    コミュニケーションによって価値の探求と探索を実現するものとして有効に活用する。
  • プロダクトオーナー
    外に真実があるのではなく、コミュニケーションの中で価値がわかる。それを実現するため「オーナー」は、システムの中に入って主体性の獲得を目的とする有効なプラクティス名である。
  • 「完了(DONE)」の定義
    領域を分割しているわけではないため、それぞれの行動について、その都度の領域を決める必要がある。

アジャイル開発(プラクティスのセット)は、うまく行くための支援するノウハウが詰まっているため、有効に使おう。ただし、アジャイル開発をやることを目的にしてしまうと、本末転倒になりがちである。アジャイルである(be-agile)ようにしよう。

おわりに

本質的な困難へのアプローチ、という観点でアジャイルマニフェストとその原則やプラクティスを整理すると、アジャイル開発の「なぜなのか(WHY)」や目的がすっきり理解できた。

アジャイル開発も含むソフトウェアエンジニアリングは、たくさんの経験や知見を通じて進化している。そのため、1986年の『銀の弾はない』の議論で止まることがいいわけではない。さまざまな知見や経験を通じて、さらなる進化が大切である。

病気治療の第一ステップは、悪霊信仰を細菌説によって生理学的理論に置き換えることだった。このステップこそ希望の始まりであり、すべての魔法のような解決策の夢を打ち砕いた。
医療従事者は、進歩は段階を追いながら多大な努力を払って遂げるもので、健康回復には持続的で根気強い介護がなされなければならないと教え込まれた。今日のソフトウェアエンジニアリングにおいても、それは変わらない。

アジャイルは銀の弾である、少なくともポテンシャルはある、と言えるかもしれない。ただし、特効薬や弾ではなく、じっくり効果を発揮していくのでやっぱり銀の弾ではない、とも言えるかもしれない。

とりあえず、今日のところはここまで。
おいしいものを食べようよ。

参考資料

  • Brooks, Frederick P., (1975). The Mythical Man-Month. Addison-Wesley. ISBN 0-201-00650-2.
  • Brooks, Frederick P., (1986). “No Silver Bullet — Essence and Accident in Software Engineering”. Proceedings of the IFIP Tenth World Computing Conference: 1069–1076.
  • フレデリック・P・ブルックス Jr.、滝沢徹 (訳) 、牧野祐子 (訳) 、宮澤昇 (訳) 『人月の神話 狼人間を撃つ銀の弾はない (20周年記念増訂版、新装版)』 ピアソン・エデュケーション、2002年。ISBN 978-4-89471-665-0

本記事における引用は、20周年記念増訂版を用いている。

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追記・コメントなど

ランニングを始めたきっかけ

ランニングを始めたきっかけを書いておきます(今は走っていません).

子どものころ走るのがとても遅くてコンプレックスを感じていました.

小学校のクラスで2番目に遅い子どもでした.中学校や高校のマラソン大会でも走りきれず歩いていて からかわれていました.ますます走るのが嫌いになり,ますます走るのが遅くなる,という循環が続いていました.

大学時代は,所持金のほぼすべてが本代に消えました.電車代や定期代も本代に消えました.そのため仕方なく実家にあった自転車(いわゆるママチャリ)で通うことにしました.雪の日は断念しましたが,嵐の日も自転車でコリコリと通っていました.

片道15kmの距離で,多摩川のサイクリングロードだったので,走りやすい道でした.ママチャリとはいえ,頑張ればそれなりにスピードは出ます.心地よく季節を感じながら楽しんでいました(=スピードを出していました).風の強い日にはロードレーサーの人たちの風除けにされるぐらいは頑張って走ってました.今思うと,ママチャリで往復30kmを全力で走ることは,とても良いトレーニングになったようです.

その後,就職し,走らない時期がありました.しかし私の影響を受けて自転車を始めた友人から逆輸入する形で自転車通勤を始めることにしました.入社の面接のとき「自転車で通勤していいか」と聞き,了解をもらいました.入社後,面接官だった部長から「まだ自転車通勤は始めないの?」と聞かれたこともあり,片道15km強の距離を自転車で通い始めました.当時は珍しかったこともあり,雑誌のアエラにも取材され紹介されたこともありました.

しかし,残業して深夜1時過ぎに帰ってくる途中,並んだ路上駐車の隙間から酔っ払いの自転車が飛び出してきました.そこは上り坂1だったので,時速40km弱までに減速していましたが,酔っ払いの自転車を回避するために空を飛びました.ビンディングペダルをつけているため,自転車と一体になったままです.空を飛びながら,自分の技術では自転車を巻き込んでの前回り受身(まえまわりうけみ)は難しいことと考え,しかたなく顔を守るため両手で地面を叩くようにして前受身(まえうけみ)を取りました.

次の日になっても右手の小指が痛いため近所の整形外科に見てもらいました.レントゲンでの診察の結果「右手の小指の骨が折れています.自転車で骨を折ったんだから自転車はダメです.しかし泳いだり走ったりするのは大丈夫です」とその医師から言われました.しかし,プールで泳ぐと水圧で骨折した手が痺れてしまって泳げません.しばらく何度か受診しましたが,小指の骨はくっつきません.仕方なく通勤路を走り始めることにしました.

ある時,実家に帰った時,私の母は,新聞を見せながら「近くのお医者さんだけど知ってる?」と聞かれました.その新聞には,私の通っていた整形外科の医院が無免許だったと書かれていました.駅前の大きな医院だったで,びっくりしました.いつになっても骨がくっつかない理由も容易に想像がつきました.

ただ,通勤として毎日のように片道15kmを走ると,それなりにランニングが得意になってきました.つまり:

私がランニングを始めたきっかけは,無免許医師に診断されたからです.

村上春樹氏は 明治神宮野球場プロ野球開幕戦、外野席の芝生に寝そべり、ビールを飲みながら観戦中に小説を書くことを思い立つ 2 みたいに,人生を変えるようなきっかけは,どこにあるかわからないものです.

このことから学べることは,(1)交通事故には気をつけましょう,(2)世の中何がきっかけになるかわからないね,ということぐらいでしょうか.それにしても人生は面白い.

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(この記事は,Google Docsの音声入力機能を用いて入力したものをベースとしています)


  1. 秋葉原末広町近くの妻恋坂です.いい名前ですね

  2. https://ja.wikipedia.org/wiki/村上春樹

おわりに - 子どものしかりかた (7/7)

おわりに(子どもたちへ)

元気に楽しく過ごすために,どのように子どもに接してきたのかをまとめた.

今回紹介した方法の弱点は,時間や手間がかかるようにみえるかもしれない.親の願望を一方的に伝え続けるのではなく,最初のうちは時間と労力をほんの一手間かけ,子どもの声に耳をすませ,よく観察していくだけである.しかしながら,結局のところ,長期にわたって親と子どもの願望をすり合わせながら生活を営んでいくため,すこやかな時間が最大化する.たとえ,一緒に長く過ごしたとしてもピリピリとして楽しくない時間が多ければ,残念ながら喜ばしい人生とはいえないだろう.いろいろな楽しい会話が増えるのだ.

これが書かれた時期は,子育てで ほめることが大切である,叱るしかることや 怒るおこることも違うと言われていた.どちらの意見も子どもを子供扱いしている居心地の悪さがあり,親の学びも限定される.自分の気持ちや感情を正直に伝えお互いに成長できる関係を目指すと,子育てを通じて親自身も成長できるのは,とても喜ばしいし楽しい.

これが書かれた時代は「しかる」ことや「怒る」ことは,社会的なリスクが伴うようになり,「しかる」ことが少なくなったきたように思う.実際,この記事でも「ゼロを目指そう」と書いた.そのような時代背景のなか,むしろ「(適切に)しかること」が大切になってくるのかもしれない.しかる(怒る)ことは,人間の持つ感情のひとつである.心地よくない感情ではあるが,もし欠如するとバランスが取れなくなり「草食化」や「停滞」などの言葉が連想される社会的な問題になってくるだろう.

これから,どのような時代になるのかわからない.どのような時代になっても,親子や夫婦,家族や友人との関係は重要であり続けながら,その文化や時代が大きく変わってきた.そのような中で,どのように文化や時代における価値観を大切にするのかを考えていくようになるだろう.逆に,より複雑で変化するため,すべてを把握することが困難になっているかもしれない.そのようなときに「よりどころ」のひとつとして読んでもらうのもうれしい.さらには,親を乗り越えていくための礎となるのなら,もっとうれしい.

これからも,すこやかに楽しくまいりましょう.

関連記事

謝辞

  • いつも一緒にいてくれる子どもたちと家族に感謝する.毎日,楽しいよ.
  • このように私を育ててくれた両親とその両親たちの連鎖に感謝する.おかげで私はここにいる.
  • 友人たちに感謝する.子育てに向かい合っている友人も,仕事を頑張っている友人もいる.いつもありがとう.

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これは最後の記事です.

記事一覧

  1. はじめに - 子どものしかりかた (1/7)
  2. 子育てとしかることと怒ること(定義) - 子どものしかりかた (2/7)
  3. 子どもは しかって強く育てるのか,ほめて伸ばすのか,子育ての心がけ(欺瞞と正直) - 子どものしかりかた (3/7)
  4. どのぐらいしかるのか(頻度と度合い) - 子どものしかりかた (4/7)
  5. 子どもが自分で行動するために判断基準を作ろう - 子どものしかりかた (5/7)
  6. なぜしかるのか,どのようにしかるのか - 子どものしかりかた (6/7)
  7. おわりに - 子どものしかりかた (7/7)

読んでくださり,ありがとうございました.よろしければシェアや いいねをお願いします.

なぜしかるのか,どのようにしかるのか - 子どものしかりかた (6/7)

なぜしかるのか(期待と連鎖)

親自身の持つ期待があるから,しかる(おこる)気持ちになる.その期待は,自分の親から引き継ぎ,子どもへと連鎖していく. 何をしかっているのか(伝えているのか)自覚しているか

期待しすぎると束縛になる. 親は,子どもに成長して欲しいと願う反面「素直でいい子でいてほしい」と願う気持ちもある.この「いい子でいてほしい」願いの最たるものは「赤ちゃんのままでいて欲しい」と親は願っていてしまう.「子どもを守りたい」「子どもが好きである」のような親の期待は強すぎると過度の束縛になってしまう.たとえば,箸の上げ下ろしまで細かいことまで注文をつけ,のびのびとさせられない.異様なまでにベタベタしてしまう子離れができない状態もある.家族や社会においてある程度の束縛はあるが,程度が強すぎると副作用がでてくる.

意識しにくい親自身の期待に応じた反応を返している. 子どもと触れ合う中で,親自身が何を期待しているのかがわからないことが多い.多くの場合,親自身がそれに気がつくと鳥肌が立つように驚くし,場合によっては怒り出す人さえいる.たとえば,東京の満員電車の中で,静かにしていれば褒めるし,うるさくしていればしかるのは,静かにし,他人に迷惑をかけないように期待していることになる.そのような親自身の行動があった場合,なぜそのように考えているのかを掘り下げてもわからないことが多い.そして,その期待は絶対的なものではなく,親自身が育ってきた文化や状況に応じた期待をしていることに気づくと楽になる.人は,その期待に応じた反応を返している.

期待が自覚しにくいので無理難題を押し付けてしまいがちだ. 良い学校や会社に入ってほしい,子どもには幸せになってほしい,いい子になって欲しい,逆に何も期待したくないという,いろいろな期待がある.その期待は親自身では自覚しにくいため,無理難題を押し付けてしまう傾向がある.

親自身の反応に着目する必要がある. 自分自身のしかろう・怒ろうと思うことの背景には,どのような期待があるのか,それは子どもにあっているのかに気づかなければならない.どのような期待なのか,それは子どもにあっているのかをよく吟味する必要がある.

自分が子どもだった頃を思い出そう(世代を超えた連鎖) 自分が子どもだった時を思い返してみよう.いやだったことはなんだろうか.意味のないことはなんだろうか.親自身が子どもの時にされてきたことを,子どもに期待してしまうことが多い.この期待が望まれない時は,子どもに連鎖させないようにしよう.

この連鎖は,無意識で自分自身に染み付いているため,なかなか切り離せない.十年以上かかっても治りにくいため,あきらめず時間をかけてじっくりと取り組んでいこう.

大人であれ,子どもであれ,人は周りの期待に答えようとする(=影響を受ける)ため,大人扱いすると大人として振る舞う.子供扱いすると子どもとして振る舞う.

しかり方のポイント

効果的にしかるため,しかり方のポイントをまとめた.

  1. 親(両親,祖父母,先生など指導する関係者を含む)で協力し役割分担しているか
  2. 子どもは,あらかじめ わかっているか(事前告知制による予測可能性の向上)
  3. わかりやすく具体的な内容と物語を伝えているか(説明責任)
  4. 子どもには,できない理由がある(実行できない要因はなにか)
  5. 成果がでるまで耐えることもある
  6. 子育ては本気で

親(両親,祖父母,先生など指導する関係者を含む)で協力し役割分担する

子どもと接しているのは私だけで いっぱいいっぱいだ

さまざまな家族の構成や関係があるため一概には言えないとはいえ,関係する大人で子どもとの関係について話し合い役割分担すると楽になる.

  • たとえば,両親が一緒にいる時は,両方で同じ口調でしからないように取り決めている.父親が激しい口調でしかった場合は,母親が優しく受け止める,のような取り決めをしている.たとえば,父親が激しい口調でしかったが,違和感を感じた母親から「なぜしかったのか」指摘してと相互理解をしよう.もし納得できるなようであれば,噛み砕いて母親が説明するし,しかったことがよくなかった時は父親が謝る.
  • たとえば,母親は,いじめられないよう細かく子どもに指摘していた時に,それを聞いていた父親がその内容に矛盾があり子どもが困っていることを指摘した.その結果,子どもはすっきりとし母親が細かく指摘することは少なくなった.
  • 祖父母と同居している時は,祖父母との孫との関係性を見て,祖父母に指摘しつつも,その行動を想定した行動するなどコントロールしきれない中で最善を尽くそう.

このように親が協力し役割分担することで一貫性とバランスが取れた状態を目指している.

あらかじめ伝えておく(事前告知制による予測可能性の向上)

気が付いた時に しかると,のびのびとあそべない

突然,子どもが怒られると,びっくりしてしまうし,親の顔色をうかがう能力が長けてしまう.顔色を伺うことは大切な能力であるが,あまり徹底すると,のびのびと遊べなくなってしまう.

それゆえ,あらかじめ注意事項を伝えておく. それだけ気をつけていれば,親の目を気にせず のびのびと遊べるし,危険なことを避けられるので親も安心していられる.事前に告知することは,カンファレンスや研修の時,講師は,あらかじめ会場についての注意事項とスケジュールを伝えることに似ている.

たとえば,初めての公園や遊び場についた時は,このような指摘事項を伝える:

  1. 安全と健康に関する注意事項:「公園の外にある道路は車が多いから,公園の外に出る時は教えてほしい」
  2. スケジュール/集合時間:「寒くなる16時ごろになったら帰ろう.ここに集まってね.」
  3. そのほか気になったこと:「あそこの木は面白そうだね〜」
  4. 質問事項:「質問,何かある?気になることがあったら,その時でいいから教えてね」

この場合,道路に飛び出したなどの場合はしかることになるし,16時を過ぎて遊びたい時は親に交渉する.

もし指摘事項をあらかじめ伝えていなければ,親が「(指摘がモレていたことを)ごめんなさい」と謝る. これは,ダブルバインド1のような矛盾したコミュニケーションを構造的に排除する効果もある.このようにあらかじめ伝えておくことによって.子どもは親の行動が予測可能になってくる.

わかりやすく具体的な内容と物語を伝えよう(説明責任)

何度でもしかる必要があるのは,子どもは理解していない

親からの指摘が「きちんとしなさい」「ちゃんとしなさい」「もっと頑張れ」のような内容では,子どもはわからない.何が「きちんと」「ちゃんと」なのかを噛み砕いて話そう.たとえば,朝,学校に行く前に「ちゃんと用意しなさい」ではなく「歯磨きをして,ハンカチとティッシュを持つ.(冬は)上着を着る」のように噛み砕くとよい.宿題やお稽古事があるときはタスクリストを用意しておく2

習慣づけする前には,子どもと共有できる物語があると面白くなる.ちょっと前だと「夜,寝ないとお化けがきて,足裏をペロペロ舐めるから背を伸びなくなるよ(子どもは,成長を阻止する要因のことを教えた)」や「バイキンマンは,手洗い うがいが嫌いだ,バイキンマンをやっつけよう」などのように,楽しみながら伝えよう.

もし交通ルールのように複数の指摘事項があるときは,交通教室(小学校でやってくれる)を参考にするなどの方法が取れる.

子どもにって怒られることは影響が大きいため,親自身は子どもが納得し理解するまで説明する責任がある. 暗黙的な価値観でしかることが多く,子どもに説明することは困難なことが多い.子どもに説明できるよう少しずつトレーニングしていく必要がある3.しかっている内容が妥当であるのか,子どもと合意できることが望ましい.

できない理由を探ろう

何度しかっても,そのことをやってくれない

できない子ども: 家族で一緒に外出するとき,用意や準備をするように指摘されても,ギリギリまで手をつけない子どもがいた.ギリギリになっても準備をせずに何度も指摘されている.繰り返し言われるので「やれやれ」という諦めたような表情をして準備していた.簡単なことを何度も言われてもできなかった.

できない理由がある: よくよく観察して見ると,行動が効率的で早めに準備できている.とても準備が早いため,ずーっと玄関で待ってしまうことがわかった.つまり,待っているのは子どもで,親の準備が遅かったのだ.

このように子どしかには,指摘された内容を実行したくない理由があるのだ.その理由を取り除かないで,いくら厳しくして繰り返ししかっても全く意味がない.むしろ子どもの不信感を育ててしまう.

なぜしかられたことをしないのか,一緒に理由を考えてみよう. 人生経験の豊富な親が,何が悪いのかが理解しても実行できない理由を子どもと一緒に考えてみる.その環境を観察し気持ちを理解してみることは,きっかけになるだろう

押し忍ぶ時期もある

何十年もかけて会得する稽古ごとや修行のように,言葉で説明できないこともある. 会得した時に,その感覚や状態には言葉が付いているものの,会得しない状態では理解ができないからである.

成果が出るまで時間がかかるものだ. たとえば,算数や英語,習字などの勉強や,空手や能楽など使う技術はなんども繰り返して身につける必要がある.体が覚え無意識にできるようになるまで一定期間の時間が必要なものもある.

押忍の精神も必要である. その場合,自我を捨て我慢をする場面があることも理解してもらう(うちでは「ここは,押忍だよ」のように話している).

ただし,根性論や精神論になってしまう効率的ではない状況もありえる.あくまで信頼された経験のある人であるか,安全や健康などが担保されることなど,十分に見極めることを忘れてはならない.

しかる(怒る)時は本気で怒る

中途半端ではなく,本気で怒ろう. むろん安全にね.

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次の記事は おわりに - 子どものしかりかた (7/7) だよ.

記事一覧

  1. はじめに - 子どものしかりかた (1/7)
  2. 子育てとしかることと怒ること(定義) - 子どものしかりかた (2/7)
  3. 子どもは しかって強く育てるのか,ほめて伸ばすのか,子育ての心がけ(欺瞞と正直) - 子どものしかりかた (3/7)
  4. どのぐらいしかるのか(頻度と度合い) - 子どものしかりかた (4/7)
  5. 子どもが自分で行動するために判断基準を作ろう - 子どものしかりかた (5/7)
  6. なぜしかるのか,どのようにしかるのか - 子どものしかりかた (6/7)
  7. おわりに - 子どものしかりかた (7/7)

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  1. ダブルバインドは,チームの育て方(6):ダブルバインドとの戦い - ari’s world を参照してほしい.

  2. プロジェクト手法を参考にしたタスク管理は,とてもよく動いているため,いつか記事に書く.

  3. 子どもに説明する能力を向上させることは,いつか書きたい.場合によって,こちらも興味があれば,ワークショップや研修の実施も検討したい.

どのぐらいしかるのか(頻度と度合い) - 子どものしかりかた (4/7)

どのぐらいしかるのか(頻度と度合い)

わからないことは宝である

営為を継続することで力をつける: 歯磨きから計算,水泳の練習から空手の稽古まで,継続の中で力をつけることができる.一度だけでは,それぞれの行為をうまくやることができない.気の遠くなるように繰り返し,継続することによって身につけることができる.継続と言えども,まったく同じことをしているわけではない.物事の理解を深め,深くそして広く学ぶことになる.

営為を継続することで極端や未知を知り器を大きくする: まったく経験がなければ,なにごとも未知のことである.未知のことを少しずつ広げることが,経験に繋がる.未知のことは,その時の範囲から超えているため極端とも言える.大きく外れているが,極端を経験することによって,未知の幅を広げることができる.わからないことを目にして,どうこうすることで少しずつ成長する1

わからないことは宝物である: このようにわからないこと(未知)は宝物である.それぞれの子どもは,宝物を少しずつ探して,自分のものにする.そのわからないことがわかるようになるまで,数年かかるか数十年かかるか,一生わからないままですごすかも わからない.

宝探しをしよう: 子どもの宝物は親にはわからないし親が見つけるものでもない.自分ならでは宝物をさがしてみよう.子ども自身が宝を見つける必要がある.

いかにわからないことに直面するのかが大切である.

しかる頻度

何度しかっても聞いてくれないから,よくしかっている

しかることには,怒りの感情が多少なりとも含まれがち であることを理解しよう.怒られる子どもは,怒った親に比べて気持ちや感情など精神的な影響が大きい2.ましてや,子どもは逃げることが困難なため,その影響は親から想像できないほど大きくなる.

怒りの感情は影響が大きいため,理不尽に怒られ続けていると身を守るか反撃にでるしかない. なぜならば,理解せずに怒られ続けていると混乱し,思考が停滞する.そのような停滞状況を回避したくなるからだ.身を守る行動は,無視する,他のことを考えるなど防御する態度をとることになる.たとえば,いつも怒られている(=しかられている)状況では,もはや無視することや殻にこもることが常態化し,どうでもよくなってしまう.場合によっては,帰宅しないなどの逃避行動にである.反撃は,炭火のように怒りの感情がたまるか,蓄積され爆発するなどの行動にでるようだ.

いちばんの問題は,しかっている内容は子どもには伝わらないことだ. そのため,どのように効率よく伝えるのかを考える必要がある.その中の一つとしてしかることがある.これは,子どもと親の状況によるため一概には言えないが,その親子を見ていくしかない.

しかられた内容を理解し,行動を修正するためには,数週間から数ヶ月はかかる. 自分自身のよくないことは習慣や癖になっていて,自動的に行われているため,すぐに修正できない.しかられたことを理解し,修正しようとしている最中に,他のことを言われても混乱するだけで,修正が遅くなる.

この「自分で生きていくために何が必要か」のポイントをどこに置くのかによって子育ての内容が違う.なぜなら,親の経験を通じて,身につけてほしいポイントが異なってくるからだ.

しかる頻度は,最小になるよう親が努力しよう. 強い態度で責めることは,健康的なコミュニケーションとは言えない.人生経験があり立場が強いのは親なので,しかる頻度を最小にするよう努力しよう.全く怒らない/しからないゼロの状態を目指そう3

口調や態度の厳しさの度合い・細かいことを気にするな

いつも怒鳴ってばかりで疲れる

口調や態度の厳しさを決めてメリハリをつける: 最初は,気がついたベースでしかっていると,その都度,子どもが心配や不安になっていた.気遣いすることを学ぶが,自分で考え,自分で判断して行動するようにはならない.そこで,どのような時に厳しく接し,どのようなときに優しく接するのかの度合いを明確にした.

口調や態度の厳しさ(例): 危険な行為は口調や態度が厳しくなり,大事ではないことは指摘するに止まる.下のリストの 1.叱咤,2.注意,3.指摘のようにリストの上のものは,口調や態度が厳しい.たとえば,このリストにあるように,子どもたちとは合意されている:

  1. 叱咤:厳しい口調
    • 生き延びるために必要なこと
    • 安全のために必要なこと(大怪我,大火傷,死亡に至る交通事故など)
  2. 注意:
    • 自分を大切にしない言動
    • 他人や物を大切にしない言動/迷惑をかけること(ただし,程度による)
    • 繰り返し無視すること(返事や挨拶)
  3. 指摘
    • 健康を損ねること(入眠や手洗いの励行)
    • 文化的な慣習(箸の持ち方/食べ方)
    • きちんと自分の意見を言わないこと
    • 卑屈になること
  4. 上記に当てはまらないこと
    • 宿題やテストの結果が悪いとき(悪けれどショックは受けるケド)
    • 忘れ物や怠けること

たとえば,交通ルールの赤信号と一時停止の無視は事故に結びつくため激しい口調で怒鳴る(なお,自分の子どもだけでなく,子どもに危害を与えそうになった他者に対しても遵守するよう厳しい口調で接する).たとえば,正しくお箸を持てない,挨拶をしないなどの場合は「食べ終わったらお箸の練習をしよう」とか「(東京において)挨拶は大切だよ」の指摘になる.言われたことが伝わっていない時は,だんだん口調が厳しくなることもあるし,他の方法を考えることもある.

このリストは,親から子どもだけでなく,子ども同士のやりとりにも適用される.たとえば,3. や 4.の内容を厳しく叱咤した場合は,指摘した人に「やさしい気持ち,やさしい言葉で伝えようね」と指摘する.このように,細かいことは気にしないよう繰り返し伝える.

いつものようにしかっていると,それはBGMのように心に届かないし,話を聞こうとは思わない.しかし,このようにメリハリをつけて接すると,子どもも心を開くし話をよく聞いてくれる.

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次の記事は 子どもが自分で行動するために判断基準を作ろう - 子どものしかりかた (5/7)だよ.

記事一覧

  1. はじめに - 子どものしかりかた (1/7)
  2. 子育てとしかることと怒ること(定義) - 子どものしかりかた (2/7)
  3. 子どもは しかって強く育てるのか,ほめて伸ばすのか,子育ての心がけ(欺瞞と正直) - 子どものしかりかた (3/7)
  4. どのぐらいしかるのか(頻度と度合い) - 子どものしかりかた (4/7)
  5. 子どもが自分で行動するために判断基準を作ろう - 子どものしかりかた (5/7)
  6. なぜしかるのか,どのようにしかるのか - 子どものしかりかた (6/7)
  7. おわりに - 子どものしかりかた (7/7)

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  1. フランスの文化人類学者・クロード・レヴィ=ストロースのブリコラージュと呼ぶものを示す.

  2. なぜ"怒りっぽい人"は嫌われ、孤立するか ポイントは「グリップ力の弱さ」:PRESIDENT Online - プレジデントの「怒る側と怒られた側、大きな意識の違いがある」を参照のこと.

  3. 現時点で,子どもたちに確認したところ,ほとんど怒らない/しかられないとのことであった.今後は,難しい時期が来るため,また異なった状態になるとは思っている.

子育てとしかることと怒ること(定義) - 子どものしかりかた (2/7)

子育てと しかること

子どもは親が育てるのか

親が子どもを育てていると考えがちだが,子どもは自分の力で成長する.たとえば農家が稲や苗木を育てる関係性に似ている.農家(親)が育てているのではなく,水や養分を吸い,太陽を浴び呼吸して成長するのは稲や苗木自身である.親や百姓は,苗木の環境を整え,水をやることはできるが,自分が育てているのではない.あくまで,苗木自身が自分の力で育っていく.稲や苗木に対して水を枯らし太陽に当てなければ,悲しい結果になるのも子育てと似ている.同様に子育ても,親が育てるのではなく子どもが自ら成長していくことを支援しているにすぎない.つまり,子育てとは,環境と関係を整え子どもの成長を支援すること である.

子どもは,自分自身の人格を持ち,子ども自身で考える他人である.子どもは,他人であるので親の思い通りに動かすことはできないし,あくまで環境と関係を整えるしかない.

子育ての関係性

よくない言動を修正するのは子どもなのか

立場の違いがある: しかることは,親から子,上司から部下,先輩から後輩のように立場や能力が違うことが前提となっている(部下や後輩との関係も似ているが,ここでは子どもと表記する).特に,子どもは立場や能力が弱く,それだけ選択肢が少なく,逃げ出すことが困難であり,しかられたことを受け入れざるをえない.

一方向のコミュニケーションとなる: あくまで立場の弱い子どものよくない言動を直すことが対象となっている.そのような関係性を前提として,親は子どもを強い態度で責めるため,本質的に一方向のコミュニーションである.「わかるよな!?」と質問しても「うん,わかった」と返事するのは,この立場が弱いことによって正直に答えられない.

良し悪しの判断は親がしている: ある言動が良いか悪いかを判断しているのは,立場が強い親である.つまり,子どもには,何が悪くて何が良いのかはわからない.しかられている子どもは,基本的に萎縮しているため正直に理由を考えにくいし話しにくい.

しかり方を修正するのは親自身しかできない: そのため「しかり方」についての修正するのは,子どもではなく親である.「子どものよくない言動を直す」ためには,立場が強く能力がある「親自身が直る」しかない.なにより,子どもだけが間違っていると認識するのは,学習する機会を増やすための謙虚さに欠けて,親自身が成長する機会を失ってしまう.

しかることとは

子どもを育てる 様々な方法がある: 成長する中で必要なことを学ぶため,この身につけてほしい必要なポイントを伝えていく.この必要なポイントは,家庭や親子によって,それぞれ異なっている.ある文化では修行にでることが必要とされ,ある文化では夢や目的を持つことが大切とされ,ある文化では現実を見ることが大切とされている.そのような異なった文化の中でも,家庭ごとに違ってくる.そのように必要なことも違う.また,その必要なことを伝える方法も様々だ.言葉を使う,態度や体を使う,環境を使うなどの方法がある.日本社会ではよく使われる「しかる」と「ほめる」に注目した.

しかることは,親の願いを伝えるひとつの方法である: 危機に直面したことなど親の文化や判断基準における違反した時に,それは違反したことと,修正することを伝えて,修正してももらいたいと願っている.しかることは,強い感情もしくは行動にそって働くため,その願いを伝えるひとつの手段である.そのため強い感情を持って相手に効率よく伝える方法といえる.相手が納得し,次からそのように行動できるようになることが「よくない言動を修正する」ことになる.

しかることと おこることは違うことか

しかるのは,子どものためで,怒っていることとはちがうのか

しかるとおこるの区別があると言われている: 叱る(しかる)とは,相手のあやまったところを指摘し,厳しく注意を与えることである.怒る(おこる)は腹を立てて相手に注意することである.やさしくしかることはできるが,やさしく怒ることはない.子育ての場面において,親が子どものあやまったところを指摘し,注意を与えることである.どちらも,相手のよくない言動をとがめて厳しく注意する意味では同じではある.

子育ての場面において,しかることは相手のためを思って厳しい言い方をしている.怒ることは腹を立てている自分の感情の一種であり,自分がスッキリするためにする行為である,と言われている.このように子育てにおいて,怒らず,しかるような論調が主流を占めている.

しかっている時は怒りの感情が含まれている: 親となってしかったときの気持ちを思い出してほしい.よくない言動に直面することによって怒りの感情を持ち,そのことを飲み込んでしかっているのではないか.つまり,親は怒りの感情を押し隠して,しかっているのだから,怒りの感情はない,もしくは少なくしていると考えているのではないだろうか.この場合,子どもに対して激昂するようなものだけでなく,家から出るなどの行動も怒りである.

子どもは怒るとしかるの区別は難しい: しかるも怒るも「強い態度で責める」ことであるため,親はしかっているつもりであっても,強い態度で責められている子どもからの区別は難しい.怒りは強い感情で隠すことが困難で,子どもはその怒りの感情を容易に見破っている.親は「怒っていない,しかっているだけだよな」と子どもに確認したとしても,子どもは,親の怒りを解除したいがために,しかっている状態を終わらせたいため「うん」と答えていることになる.激しい感情を持っている親に対して,子どもが平常心でいられるとは考えにくい.

適切に内容を伝える技術がない場合に,しかっているのと怒っているのは違う,と親が言っているのではないか: 親が怒っているだけにも関わらず,指導しているんだと自己満足し言い訳になっているのではないだろうか.「しかっている」と言い訳をしながら,自分自身がスッキリするために怒っている状態になってしまうだろう.子どもを見下し指導することによって,親子の関係性における親の地位を上に上げるための行動とも解釈できる.このように,しかるとおこるを分離することは,親は子どもを見下し,対等な関係を作れなくなってしまうことを覆い隠してしまう.

共に育って行くことを阻害する: あくまで目的は,よくない言動を修正することにある.よくないことは,子どもにだけあるのだろうか.いや,親にもよくない言動はある.これは,お互いに矛盾していると思い合っていることになる.

子育てへの関わり方

子どもはよく知らない,子どもから学ぶことなんてない

それゆえ,子どもも成長するし,親も成長するような,共に成長していく関係性を目指す: 親から子どもに良くないことを伝え,子どもから親へも良くないことを伝える.そのような情報を得ることによって,親も子どもも双方が,一緒に成長するような機会になれば,より発展しやすくなる.親は子どもの成長を取り込み,子どもは親の成長を取り込むような関係性である.

子どもはしかって強く育てるのか,褒めて伸ばすのか,子育ての心がけ(欺瞞と正直) - ari's world にあるとおり,そこではしかることも褒めることも,健全な状態で正直な気持ちを伝えることへシフトしていく.

子どもと一緒に取り組む: 親は自分自身の接し方を修正しながら,子どもと一緒に「よくない言動に取り組む」ことになる.あくまで,よくない言説が問題なだけで子どもの存在が悪いわけではない.

親自身のしかり方を修正していくことも必要である 気になることを調整することによって,共に成長することになる.実際のところ,判断基準や心がけについても,子どものとのやりとりの中で発生した.子どもだけが成長していくのも,率直なところ子育ては退屈になってしまうだろう.共に成長できるのであればワクワクして楽しい.

よくない言動を修正し,楽しく一緒に歩もう

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次の記事は 子どもは しかって強く育てるのか,ほめて伸ばすのか,子育ての心がけ(欺瞞と正直) - 子どものしかりかた (3/7) だよ.

記事一覧

  1. はじめに - 子どものしかりかた (1/7)
  2. 子育てとしかることと怒ること(定義) - 子どものしかりかた (2/7)
  3. 子どもは しかって強く育てるのか,ほめて伸ばすのか,子育ての心がけ(欺瞞と正直) - 子どものしかりかた (3/7)
  4. どのぐらいしかるのか(頻度と度合い) - 子どものしかりかた (4/7)
  5. 子どもが自分で行動するために判断基準を作ろう - 子どものしかりかた (5/7)
  6. なぜしかるのか,どのようにしかるのか - 子どものしかりかた (6/7)
  7. おわりに - 子どものしかりかた (7/7)

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はじめに - 子どものしかりかた (1/7)

はじめに

現在,3人の子どもがいる.現在,5歳(男),8歳(男),11歳(女)となっている.しんどいことから楽しいことまで,いろいろな想像もつかないことがあった.仲がいい時も,ケンカするときもある.元気な時も病気の時もある.子育ては,衣食住を用意し,怪我や病気の回避し,お行儀やマナーを向上させ,勉強や遊びなどなど,いろいろなことがある.他の家庭と同じように,私なりに真剣勝負でぶつかってきたつもりだ.日々の生活の中で「うまくいかないなぁ」「どうだろうか」と試行錯誤してきた.この記事は,書籍や記事を直接的に参照したものではなく,子どもと向かい合ってきた経験をベースにした記録である.

時には叱るしかることや 怒るおこることもある.親も体力や気力を使うが,それ以上に子どもにとって,しかられることは気持ちや感情の上でも揺り動かされインパクトが大きい.それだけ十分に考慮しケアする必要がある.

想定読者は数年後かの自分の子どもたちである. 今後,どのようなことになるかわからないが,私がどのようなことを考え,どのようにやってきたのかをまとめておきたかった1.この記事は,ある家庭における事例ではあるため他の家庭においては違うだろう.実際の子育てをやっている最中であるため矛盾する点があるし変化していくことを温かい目で見守って欲しい2.ただ,もし読んでくださった方が,子育ての参考になりヒントになったとすれば うれしい3.

長文になってしまったため,重要な点を太字にした. 太字を追いかけると,論旨がわかるようになっている.

ポイント

本記事では,このポイントについて議論している.

  1. [ ] 子どもを育てているのは親である
  2. [ ] よくない言動を直すのは子どもである
  3. [ ] 子どもはよく知らない,子どもから学ぶことなんてない
  4. [ ] 怒るのは自分のためで,しかるのは子どものためである
  5. [ ] しかって強く育てることや,ほめて伸ばすことが大切である
  6. [ ] いつも怒鳴ってばかりで疲れる
  7. [ ] いろいろな指摘事項があるから,よくしかっている
  8. [ ] 子どもは言われたことしかやらないので困っている
  9. [ ] 何をしかっているのか わからなくなることがある
  10. [ ] なぜしかる(おこる)のかが わからないので困っている
  11. [ ] 子どもと接しているのは私だけで いっぱいいっぱいだ
  12. [ ] 気が付いた時に しかればよい
  13. [ ] 子どもは理解できないから何度でもしかる必要がある
  14. [ ] 何度しかっても,そのことをやってくれないから困っている

本文中にも イタリック体 で示した.

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次の記事は 子育てとしかることと怒ること(定義) - 子どものしかりかた (2/7) - ari's worldだよ.

記事一覧

  1. はじめに - 子どものしかりかた (1/7)
  2. 子育てとしかることと怒ること(定義) - 子どものしかりかた (2/7)
  3. 子どもは しかって強く育てるのか,ほめて伸ばすのか,子育ての心がけ(欺瞞と正直) - 子どものしかりかた (3/7)
  4. どのぐらいしかるのか(頻度と度合い) - 子どものしかりかた (4/7)
  5. 子どもが自分で行動するために判断基準を作ろう - 子どものしかりかた (5/7)
  6. なぜしかるのか,どのようにしかるのか - 子どものしかりかた (6/7)
  7. おわりに - 子どものしかりかた (7/7)

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  1. 後悔しないための私的なメモ(小さなお子さんがいらっしゃる方へ) - ari’s worldに書いてある通りだ.背景について興味がある方は聞いてください.

  2. 自分自身の矛盾は,自分自身で気づきにくいことと,解消しにくい特徴があるが,このような記事を通して修正していきたい.

  3. ワークショップやサロンなどで,みなさんの意見をうかがう機会を作りたい.