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かけ算の順序問題をゆるく考えよう(追記あり)

かけ算の順序問題をゆるく考えよう

このところ、かけ算の順序の問題がFacebookTwitterなどのタイムラインに流れてくる。まさしく次男(二年生・2016年)は、かけ算を学んでいるところである。さあ、無視するのもひとつだが、どう教えようか悩ましいところだ。数日に渡り、子どもたちと話してきたことを簡単にまとめる。

かけ算の順序問題とは

かけ算の順序問題 - Wikipediaより引用する

かけ算の順序問題は、かけ算によって解が得られる算数の文章題において、特定の順序で書かれた式のみを正解とする採点方針と、どの順序で書かれた式でも正解とするべきであるという主張の対立である。

例えば、1つぶんの数×いくつ分で求まるかけ算の文章問題では、「6人のこどもに、1人4こずつみかんをあたえたい。みかんはいくつあればよいでしょうか。」という設問に対する、「(しき)6 × 4 = 24(こたえ)24 個」という解答を不正解にすべきかどうかが問題となる。

つまり、

(かけられる数)× (かける数)

もしくは

(単位あたりの数)×(乗数)

の順番ではない式を回答した場合、間違い(ぺけ)とするかどうか、と言う議論である。

「かけ算の順序」問題の議論

試しに「かけ算 順序」で検索するとホットなトピックになっているためか、たくさんの検索結果がある。例えば、こんな感じだ:

調べれば調べるほど、長期間にわたって議論がされている。今のところ順序を間違ったとしてペケをつけることに否定的な意見が多いようだ。

とりあえず、説明や議論…できなかった

次男(小学二年生)は、かけ算の勉強をしている最中である。

  • 子どもに説明してみたんだけど…

    「2×3と3×2が同じ答えになるんだね」と、順番を変えても同じ答えになること(交換法則)に子どもが自ら気がついた。実数のかけ算は順番を変えても答えが同じになることを話した。自分が書いた絵と同じ絵がWikipediaにあったので貼り付けると:

    MikanTable2 - wikipedia

    この図によって、かけ算の順番が変えられることは説明できた。さらに『算数に教えるのに必要な素養 (PDF)』のエッセンスを説明しようと試みたが、その時は適切な伝達が難しかった。聞く方も訳がわからない感じだった(もう少し整理できそうなので、後で再試行する予定である)。

  • 先生と議論してもいいけれど…

    子どもたちが通っている小学校の教員は、知識や技術もあり熱心に教えてくださっており、感謝している。様々な教務だけでなく、事務や学習、イベントのため極めて忙しい状態に見える。その中で、 かけ算の順序問題についての議論を学校の先生としても負担になってしまい「学ぶこと」の恩恵が全体として減ってしまうと心配する。

    小学校では、かけ算を学び、計算の練習し、九九を覚える、などの一連のカリキュラムが進んでいる。先生に議論して、時間の制約もあるので全体の方針を変えるようなことは現実的に困難である。

ゲームとして考えてみる

子どもたちには 「ゲーム」について話をした。その習慣や正解は、そのゲームの中で成り立っていることを理解する。 なお、子どもたちにわかりやすいようゲームと読んでみた。この場合、ゲームとは「共通のルールの交換/前提としながら複数のプレイヤーが関係すること 」として幅広い意味で用いている(文化とも考えられるだろうが、あとで書きたい)。

  • 「食事をするときは、きちんとお箸を持ちなさい。ただし、お箸を持たない他の国もあるよ。例えば、インドではね…らしいよ」
  • 「きちんとご挨拶しなさい。ただし、挨拶しない国もあるよ。例えば、○○○ではね…」

そのゲームを選択するかどうか、ゲームにのるかどうかを含めて自分で考える。 ゲームにのって「郷に入っては郷に従う」かどうかを選択する。この場合、自分で考えるより、ゲームにのる方が良さそうな例として:

  • 「例えば、カタカナのアイウを練習している時に考えても難しいよね、教えられたように練習することも大切だよね」
  • 「例えば、空手、能や狂言について知らないよね。それらを理解する(わかる)のに数年(それ以上)かかる。相手を選んで従いなさい。」

ゲームを意識することによって、その自分が当たり前と思っている常識や正しさを含めて考える。

今回の算数については、このように子どもたちと話し合った:

  1. かけ算の意味や計算を学ぶ(ゲームのルールについて知る)。
  2. かけ算の順序が交換可能であるか一緒に考える(他のゲームについて知る)。例えば、 第1話 - 落語・掛け算(山本弘) - カクヨムは楽しかった。英語圏では順序が逆になることを一緒に調べた。
  3. その上で、小学校で行われている かけ算の順序について一緒に考えた(ゲームにのるかどうかを考える)。
    • 日本語の文章題を式にする練習のため、このように順番を大切にしているのではないか。
    • もう少しすると、(子ども自ら発見したものと同じ)交換法則を学ぶことを知るので、過渡的な勉強なのではないか。
    • テストの点数を取るため、この順番について勉強するのが適切な選択と考えられる。
  4. 教科書やドリルを使って学ぶ(ゲームにのる)
  5. たまにふりかえる(ゲームの中にいることを確認する)

子どもたちは「ゲームとして、やるか/やらないかを考える」ことを たぶん理解したようだ。

まとめ

  1. かけ算の順序が 長い期間にわたって議論されている。
  2. この議論を、当事者(かけ算を学んでいる小学二年生とその親)として 収束させることは現実的に困難である。
  3. この問題をゲームとして理解し、ゆるめる(相対化する)ことにより、ゲームにのる/おりるを選択する
  4. その結果、長期的で複数の視点の獲得によって自由を得られるとも言えるだろう。

これからは…

かけ算の順番についての議論を無視して、先生に教わったことをそのまま従えば、テストの点数を取るためには効率的かもしれない。しかしながら、常識や正しさが変わってしまう時代になってきた。教科書や指導法も、時代によって変化している。そのような時代を生きていくために、そのまま学習するのではなく、その学び方も合わせて考えることによって、とらわれにくくなることも必要ではなかろうか。ゆるめることで俯瞰し、楽しんで学習し、そして、スッキリ身につけていきたい。

今まさに試していることを紹介したものの ゲームとして考える方法だけでなく、いくつもの他に選択肢がある。まだしばらく小学二年生はかけ算の勉強中であるので、これからも見守っていきたい。

関連情報/参照情報

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追記 2019年5月4日(3年後)

かけ算の順序は、義務教育の体系化されたカリキュラム全体で評価する必要がありそうだ。

「割合」の単元は、かけ算と関連深い。さらに、かけ算は、「割合」の次に「比」につながっていく。グラフ、速度、時計、つるかめ算、比を使った図形、さらには微積分まで、つながっていく。この「比」の概念は、小学校で最も難しい単元のひとつと言われている。

たとえば、グラフを書きながら、速度と時間と距離の関係をしっかり身につける時、かけ算の順序が固定されていると書きやすい。もし、かけ算の順番がなかったら、「比」や「速度」「(比を使った)図形」などの単元で混乱しやすい。特に、この「割合」や「比」は、初めて学ぶ抽象的な概念とも言われ、つまづく場合も多いようだ。現実と抽象をしっかり結びつけて学んでほしい。

小学5年生(この記事を書いた時は2年生)に聞いてみると「売買損益の問題を解く時、<原価><定価>と<割引><利益>の順番を整理して式を書くことがとても大切だ。式に書く順番が違うと答えを間違えやすくなる!(以下略)」と熱弁してくれました。

とりあえず、うちでは、小学生の子どもに対して「かけ算の順番を使って整理しよう」と教えていきます。ただし(二年生で気づいている)順番を変えても答えは同じになることを確認します。

このように、この体型的なカリキュラム全体を、子どもたちが容易に学ぶために、かけ算の順序を固定しているのではないか。教える都合とはいえ、そのように思っている。