パタンライティングには、様々な手法がある。その目的に応じた方法を選択すると良い。むろん、ひとつそのワーク自身の目的を探すためなパタンライティングも良く行う。いずれにせよ、その組織にあった目的や関心を探すことが何よりも重要である。
パタンライティングを行うときの観点は複数にも及ぶ。この観点一つ一つが記事になるので、そのリストを参考までに紹介すると:
- 同時実行対象者数(1名、2名、複数名)
- 期待する並行対象数
- 期待する深度
- 期待するスケール
- スケール×深度 *1
- 期待する網羅性
- ビジュアル表現の有無(パタンキャンバス、問題領域と解決領域)
- ストーリ性の重視度合い
- プロセスの範疇(現象、パタン、パタンランゲージランゲージ、プロジェクトランゲージ、実施、検証)
それにかかるリソース(時間、人、金など)*2や成熟度などの制約に応じて選ぶ。
その中でも、最も大きなファクターは、過去を紡ぐのか、それとも、未来を紡ぐのか、の違いである。パタンライティングには、大きく分けてパタンの作り方には二種類ある*3。ひとつは過去を紡ぐためのパタンであり、もう一つは未来を紡ぐためのパタンである。その本質的な違いは、パタンを作っているときにすでに解決策があるかどうか、ということだ。ただ、気をつけてほしいのは、過去を紡いだパタンであっても、デザインなど未来を紡ぐために参考にできる。あくまで、その違いは、そのパタンライティングを行うときに解決されている問題かどうか、ということである。
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過去を紡ぐパタン(のパタン)
- 自分たちがうまくいった工夫などの成功体験を知られていない。
- 似たような状況を乗り越えた他の人たちがどのようにやったのを知ることができない。
- マニュアルだと、どのようなときに、その解決策を適用すればいいのかわからない。
問題
成功体験が共有されず、同じ失敗が繰り返されている、もしくは、問題が発見されてもいない。
解決策
既に解決したことがある「うまく行くコツや工夫」を集める過去を紡ぐパタンを書こう。アレグザンダーの『パタンランゲージ』も情報処理推進機構(IPA)のアジャイル調査も、それまでの成功体験や工夫などの過去を集め、発表している。そして、読者は、その他人の成功体験を参考に自分で実施する。
『パタンの書き方 http://www.cultureworks.jp/blog/?p=44 』を参考にする。成功したもの、うまく行っていること、その領域について土地勘があることが前提になる。成功したこと(解決策)から、その前提や制約事項、名前を探していく。いくつかの方法があるが、初めてのパタン作りを試みる人は、ぜひとも参考にしてほしい。
過去を紡ぐパタンの特徴は、文章の記述量が多い(厚いとも表現する)ことだ。なぜならば、筆者と読者は、コンテキスト(状況や文脈)を共有していないため、その状況を事細かに説明する必要がある。たとえば、『シェファーディングのランゲージ - 羊飼いと羊のためのパターンランゲージ http://patterns-wg.fuka.info.waseda.ac.jp/japanplop/Translations/LoS-YH-01/LOS-YH-V0120.pdf 』のパタンランゲージに「体験談(War Stories:直訳すると戦争物語)」というパタンがある。体験談の解決策はこのようになっている:「そのパターンを明確にするため、実際に体験したこと(体験談)を作者に話してもらおう。体験談は、そのパターンが一体何なのか、そして、いかに利用できるかを示す、きわめて強力な道具になりうる。」つまり、戦争を語る人のように体験を丁寧に語ることで、臨場感があり、第三者が説得されるのだ。
その結果
文脈に応じた解決策を臨場感を持って知ることができ、自らの問題に適用できる。
ただし、書くための手間がかかるし、パタンフォームの使用するかどうかだけでは、「質」が向上するかの関係は不明である。
最終的には、その個人もしくは組織の常識や習慣となり、比較的意識しないで行われるため参照されない状況になる。
未来を紡ぐパタン(もしくは、パタンの種(のパタン))*4
現在の状況に近いコンテキスト(文脈)のパタンが見つけられれば、そのまま過去の成功事例を当てはめることはよいだろう。また、十分に生き延びている知見(パタン)を、状況を読まずに適用することも良く行われる(たとえば、ふりかえりをしようよ、とか)。その結果に基づいた知見を修正していくだろう。
しかしながら、課題がありそうだ。
- 似たようなコンテキスト(文脈)を持つパタンが探せない。パタンの前提や文脈が直面していることに合わない。たとえば、「今ここにある日差しのよさを守りたい」としたとき、その状況は個別のものである。別の例では、大学の研究室で作られた知見は、前提としている状況が異なっていて共感することができなかったとよく聞くことがある。問題は無数にあり、よく似たコンテキストを探すことはとても困難だ。
- よく似たコンテキストを持つそのままパタンが見つかったとしても、自分の環境にそのままあてはめることが適切かわからない。良い例であるかは不明であるが「二度あることは三度ある」というパタンと「三度目の正直」というパタンは相反している知見であり、どちらも適切だ。三度目があったかを知るため、試してフィードバックを得られる種類の知見は実施すればよいと思うが、単なる迷走状態を生み出しかねない。意思決定の材料として、どちらが正解かを事前に知ることは難しいだろう。
問題
意思決定やデザインの場面において、(他人の)過去を紡いだパタンは参考にできるかもしれないが、自分の解決策にすることは困難だ。もしくは、自分の解決策にしたときに違和感が発生する。
解決策
そのような状況では、自らの状況を把握し、解決策を考えだし、利用・実行する必要がある。過去の成功事例を参考にしつつ自分の関わっていることがらをデザインする。
このときにパタンのコアは「アレグザンダーからのメッセージ http://www.cultureworks.jp/blog/?p=40 」にある。一番大切なことは、心から美しいと思うこと、正しいと思うものだ。コトバになっていなければ、いくつかの民族学的な手法を参考にしたテクニックを用いてコトバにすることが多い。パタンフォームでは「問題(もしくは、実現したいこと)」として記載する。
そして、この心から美しい、正しいと思うものを実現するために、それを制限するものを洗い出す(フォース)。その際、その制限するものは、立場の違いだけであってそちらも正しい、もしくは現実的な解だと思っている可能性があるので、くれぐれも尊重する心がけがその後の解決策を探すことになる。
次は、問題との解決策を探る。その際、U理論、超越法、TOCクラウド(対立解消図)、システム思考など様々なツールを使うことによって、解決策をさぐろう。選び方のポイントは、実施する目的による。たとえば、参加者がその手法を学びにきているのであれば、目立つ手法を選択するだろうし、あくまで参加者自身の関心ごとを取り扱うのであれば違和感のない透明な方法がよい。たとえば、透明な方法とは、U理論を用いる場合を例にとると、Uの谷を潜る、という表現をあえて使わず、その実質的な方法をとる。
この未来を記述するためのパタンは、参加者の多くがその状況や前提を把握しており、記述量が少なくなる傾向になる。成功体験に繋がった後は、過去の経験として様々なストーリを追加し広めていく。
その後、期待されるスコープを見定めながら、この解決策の実現や「修復(悪いことを直し、良いところを守る)」をしていく。過去のパタンから学び、未来を紡ぐパタンをさぐり、それが過去を紡ぐパタンになり修復しながら広がっていくライフサイクルになるのだ。
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本記事には、パタンランゲージおよびプロジェクトランゲージ、センタリングとセンタリングプロセス、なぜ、それが大切なのかについての記述は言及しなかったので注意されたい。