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宮本常一・安渓遊地著『調査されるという迷惑』

宮本常一・安渓遊地著『調査されるという迷惑』2008を読んだ。

調査されるという迷惑―フィールドに出る前に読んでおく本

調査されるという迷惑―フィールドに出る前に読んでおく本

タイトル通りの内容である。調査する方々が、借りたものを返さない略奪行為に走る、見下した態度をとる、取材者の意見や理論を正当化するために歪曲した報告書を書く、長時間に渡る訊問^1をする…。他人の調査について見聞きし、著者が四苦八苦している経験がセキララに書かれている。著者の姿勢が、人間らしく共感を感じながらも、もやもやした気持ちになることも確かだ。被害者の悲しみの言葉[pp.87]が心に染みる。

「種をまくことは誰にもできる。大変なのは草取りと収穫。そして一番難しいのは、耕されて荒れた土をもとに戻すこと」

種をまくことだけでなく、取材や調査することで荒らすようなことをよく見聞きする。子どもの頃、恐さを感じたのは、草葉の陰で寝ている人を起こすようなテレビ番組だ。起こし荒れた状態にしてしまったら、もとに戻すことの大変さは半端ないだろう。それ以来、できる範囲で興味本位で取材や観光を避けるようにしている。むろん関わるときは覚悟を決めてからだ。

完全に迷惑をかけないことは無理だろうけれど。簡単には「濃いかかわり」の側には踏み切らないぞ、と自分に言い聞かせておくぐらいでちょうどいい[pp.86]というのも共感する。人との関わりは、本当に難しい。

ビジネスや活動についても種をまくだけなら誰にでもできるのだ。しっかりと腰を据え、草取りから収穫まで持っていかなければ、意味がないのではなかろうか。たとえば、最新技術や最新情報に振り回されている、ということは、自分のすべきことが見えず、収穫まで持っていくことが難しくなるだろう。逆に考えれば土を元に戻すことにビジネスチャンスがある時代だとも考えられる。

フィールドワークに関わる研究者だけでなくコンサルタントやメディアなどに関わるのであれば、気に留めておく必要がある内容だ。

人であることを忘れるなよう[pp.50] - 自戒を込めて